第1回:ベンチャーキャピタルとはどんなものか?

 上田嘉紀氏


コラム:ベンチャーキャピタルベーシックの開始にあたって

ベンチャー企業の成長を加速するベンチャーキャピタルの全体像を理解しておくことは、ベンチャー企業を立ち上げたり支援したりする際に役立つと思われま す。ベンチャーキャピタルの概要に始まり、ベンチャーキャピタルからの資金調達により、どのようにベンチャービジネスが進んでいくのか、ベンチャーキャピ タルはベンチャー企業のどのような点を見ているのかといったことを、できるだけ易しくご紹介していきます。シリコンバレーでビジネスに携わる方々をはじめ として、多くの方々の参考になれば幸いです。

今回は、ベンチャーキャピタルの概要についてご紹介します。

1.ベンチャーキャピタルの仕組み

ベンチャーキャピタルとは、「急成長の可能性があり、その結果として大きなリターンが期待できるベンチャー企業の未公開株式の対価として提供される資金」 を指します。ベンチャー企業からみれば、ベンチャーキャピタリストが投資家なのですが、実際の資金の大半を提供している投資家は、年金基金などの機関投資 家や戦略的な投資を希望する事業会社などであり、ベンチャーキャピタリストは、このような投資家から預かったお金をベンチャー企業に投資することによっ て、ベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行なっているわけです。このファンドには、存続期間が決められており、通常、10年程度となっています。

ベンチャー企業は、ベンチャーキャピタルから資金を調達する際、自社の株式を提供します。ベンチャーキャピタリストは、株式公開(IPO: Initial Public Offering)や合併・買収(M&A: Merger & Acquisition)を通じて、一般投資家や事業会社などに、投資した価格よりも高い値でこの株式を売る(流動化させる)ことにより、キャピタル・ゲ インを得ます。得た現金は、投資家とベンチャーキャピタルで配分しますが、投資家に8割程度、ベンチャーキャピタリストに2割程度となっていることが多い ようです。この他、ベンチャーキャピタリストは、ファンド規模の2?3%程度の手数料を受け取り、これでファンドの運営管理を行ないます。


図1:投資家とベンチャーキャピタルとベンチャー企業の構図
図1:投資家とベンチャーキャピタルとベンチャー企業の構図



2.ベンチャーキャピタル業界の動向

古くは大航海時代、スペインのイザベラ女王が、コロンブスの航海への資金を提供したのも、一つのベンチャーキャピタルの形態といえるのかもしれませんが、 現在、見られるようなベンチャーキャピタルの形態は、第二次世界大戦後、戦争のために開発した技術を事業化するために、1946年に設立されたARD(ア メリカン・リサーチ・アンド・デベロップメント社)によって形作られたといわれています。

1946年は、カリフォルニア州においても、インダストリアル・キャピタル社とパシフィック・コースト・エンターブライズ社というベンチャーキャピタルの 先駆的存在が現れた年でもありました。奇しくも、このインダストリアル・キャピタル社は、ARDを設立したラルフ・フランダーズとともに働いたエドワー ド・へラーが設立しています。その後、1950年代半ばには、後に「ザ・グループ」と自称する内輪だけのネットワークに若い投資家が参加し始め、パロアル ト周辺の技術系ベンチャー企業に投資し始めたようです。さらに、1960年代に入ると、シリコンバレーの礎を築いたフェアチャイルド・セミコンダクター社 に投資したアーサー・ロックが、拠点を東海岸からベイエリアに移して投資活動を始めました。

その後、数々のベンチャーキャピタル・ファンドが設立されたようですが、1970年代後半に、キャピタル・ゲインに対する税率が引き下げられたり、年金基 金の運用者がベンチャーキャピタル・ファンドなどリスクの高い資産に投資できるようになったり(注)といったことを契機として、機関投資家などの大口の資 金が流れ込むようになりました。このように見ると、最近のベンチャーキャピタルの歴史は、まだ浅いといえるのかもしれません。

    注)従業員退職所得保障法[ERISA: Employee Retirement Income Security Act of 1974]改正(1979年)


ベンチャーキャピタル業界による年間投資総額は、2000年のバブル期には12兆円程度まで膨らんでいましたが、最近は、松下電器産業やソニーといった日 本の家電メーカの年間売上高(単独)と同じ程度の額、約2兆円となっています。そして、この年間投資総額の約3分の1が、シリコンバレーのベンチャーキャ ピタルによって投資されています。なお、2004年末現在、米国のベンチャーキャピタル協会(NVCA: National Venture Capital Association)には約450社が登録しています。[金額は、110円/$での換算値]


図2:米国のベンチャーキャピタルによる年間投資件数および年間投資総額の推移
図2:米国のベンチャーキャピタルによる年間投資件数および年間投資総額の推移

出典:「MoneyTree Survey」PricewaterhouseCoopers、Thomson Venture Economics、NVCA



2003年のベンチャーキャピタルによる投資は、金額ベースで見ると、以下の図のようになっています。分野としては、ソフトウエアがもっとも多く、バイ オ、通信、ネットワーク機器と続きます。投資ステージとしては、ベンチャー企業の事業が急拡大するミッドステージやレイターステージが大半を占め、立ち上 がり始めのシード・スタートアップのステージやアーリーステージへの投資は2割程度となっています。

運用利回りという視点で見ると、最近のデータでは、10年間の投資期間で約10倍、すなわち年間25%程度というのが平均的なベンチャーキャピタル・ファ ンドの姿になっているようです。ちなみに、先のARDは、1957年にDEC(デジタル・イクイップメント社)に出資し、7万ドルの投資が5,000倍以 上の3億5,500万ドルの価値になる大成功を収めました 。(注)

    注)「ベンチャーキャピタル・サイクル」(P.ゴンパース他、シュプリンガー・フェアラーク東京、2002年)



図3:2003年のベンチャーキャピタルによる投資分野と投資ステージ
図3:2003年のベンチャーキャピタルによる投資分野と投資ステージ

金額ベース[総額 $18.7B(約2兆円)]

出典:「MoneyTree Survey」PricewaterhouseCoopers、Thomson Venture Economics、NVCA



参考サイト、参考文献

•ベンチャーキャピタル協会(NVCA: National Venture Capital Association
•「MoneyTree Survey」PricewaterhouseCoopers、Thomson Venture Economics、NVCA
•「シリコンバレーは死んだか」(マーティン・ケニー編著、日本経済評論社、2002年)
•「ベンチャーキャピタル・サイクル」(P.ゴンパース他、シュプリンガー・フェアラーク東京、2002年)


上田嘉紀氏

(Yoshinori Ueda)

中小企業診断士。95年、京都大学(電気・修士)卒業後、関西電力にて、原子力発電、エネルギー関連の新規ビジネス立ち上げを経験。その後、スタンフォード大学に客員研究員として渡米。2005年1月現在、グローバル・カタリスト・パートナーズに在籍。
ブログ:Entrepreneurshipを探る旅



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