第2回:ベンチャーキャピタルからの資金調達の特徴

 上田嘉紀氏


ベンチャー企業ならば、必ずベンチャー キャピタルに頼らなければならないのかというと、決してそうではありません。しかしながら、「Ninety percent of new entrepreneurial business that don’t attract venture capital fail within three years.(※1)(ベンチャーキャピタルからの資金が調達できないベンチャー企業の9割は、3年以内に失 敗する。)」といったことも言われています。今回は、ベンチャーキャピタルからの資金調達の特徴として、そこに存在するトレードオフ、マイルストーン投資 という手法、シンジケーションについてご紹介します。

1.トレードオフ

ベンチャーキャピタルからの資金調達によってベンチャー企業の運営にプラスに働く点は、必要な資金が調達できること以外に、ベンチャーキャピタルからのモ ニタリング(監視)を受けることによって、ガバナンス(企業統治)の質が高まるということが挙げられます。ハンズオン型のベンチャーキャピタルは、投資と 同時にベンチャーキャピタリストを取締役として派遣して、ベンチャー企業の経営を監視します。このモニタリングに費やされる時間は、ベンチャーキャピタリ ストの時間の中で一番多く、4分の1程度を占めるというデータもあります。(※2)このため、ベンチャー企業としては、健全な運営が求められ続けることになります。

また、この派遣されたベンチャーキャピタリストは、ベンチャーキャピタルで培われたノウハウや人脈などを駆使して経営を支援します。シリコンバレーでは、 起業家や創業チームの一員として成功した経験のある人が、これまでに得た経験や資金をベンチャー企業に提供するという、いわゆる「シリコンバレー・サイク ル」が存在し、オペレーションの経験を持つ百戦錬磨のベンチャーキャピタリストが数多く存在しています。このようなベンチャーキャピタリストによるハンズ オン支援は、ベンチャー企業を急成長させる上で、重要な役割を担っています。例えば、マネジメントに携わる人材を探したり、製造や販売のパートナーを探し たりと、ベンチャーキャピタルの持つネットワークを活用することで、投資を受けるまでのベンチャー企業単独の力では解決することが難しい問題にも適切な対 応を行ないます。

このように、ベンチャーキャピタルからの資金調達によって、ベンチャー企業は成長していく上で必要な資金と支援を適切なタイミングで受けることができるた め、企業を急成長させることができます。この点が、自社の売上と利益に頼って成長を続けなければならない一般の企業との大きな差であるといえるでしょう。

その一方で、起業家は、自分の役割を果たさなければ、厳しくその責任を追及されるというリスクを負うことになります。最悪の場合、ベンチャー企業を追われ るといったこともありえます。また、ベンチャーキャピタルから資金を調達する際に対価として自社の株式を発行するため、株式公開など成功した際の自分の取 り分が少なくなります。ベンチャーキャピタルから資金調達するということには、このようなトレードオフが存在します。起業家は、これらを十分理解した上 で、本当にベンチャーキャピタルからの資金調達が必要であるかどうかを見極める必要があります。

2.マイルストーン投資

事業の進捗を管理するために、いつまでに何を達成するのかというマイルストーンを設けるのは、ビジネスを進める上で用いられる方法ですが、ベンチャー企業 の場合、成功の確実性を高めるために、この方法を利用するのが一般的です。マイルストーンを設定するということは、「いつまでに何ができるか」という仮説 を立てるということと同じです。例えば、マイルストーンが達成されないということは、技術的な難易度を過小評価していた、あるいは、事業の運営や管理に失 敗したといったことかもしれません。このようにマイルストーンという仮説を都度検証するということは、成功や失敗の原因を知り、将来成功する確率を高める ということにつながります。

ベンチャー企業の場合は、このマイルストーンとベンチャーキャピタルからの投資が一体となっており、投資の目的と期間が決められているのが一般的です。例 えば、プロトタイプを作るために半年で50万ドルの投資を受け、次に、それをテストしたり改良したりするために、次の半年で100万ドルの投資を受け、さ らに、量産して販売体制を整えるために300万ドルの投資を受けるといったようになります。

なお、マイルストーンが順調に達成されていることは、追加投資を依頼するベンチャー企業にとっては安心材料となりますが、だからといって、必ずしもそのビ ジネス自体が常に高く評価されるというわけではありません。なぜなら、市場や競合他社は常に動き続けているからです。このため、あらかじめ定められたマイ ルストーンを変更するということもありえます。

3.シンジケーション

ベンチャー企業が必要とする資金は、いくつかのベンチャーキャピタルが協力してシンジケーションを組んで提供するということもあります。ベンチャー企業か らみれば、複数のベンチャーキャピタルが関与することによって、ベンチャー企業の評価がより客観的になされ、あるベンチャーキャピタル1社に、資金や経営 支援などの点で過度に依存しすぎないという利点が存在します。ベンチャーキャピタルから見れば、リスクを分散するという意図がある場合もありますが、いず れにせよ、それぞれのベンチャーキャピタルが持つ貴重なノウハウや人脈などを、投資したベンチャー企業に投入できるという点が最も重要と言えるでしょう。 実際、シンジケーションを組んで行われている投資は、そうでない投資よりも高いリターンを生み出しているということが、シンジケーションの利点を裏付けて いるとも言われています。(※3)

なお、主導権を握るベンチャーキャピタルをリード・インベスターと呼び、リード・インベスターは、ベンチャー企業の価値を評価するなど、他のベンチャー キャピタルからの投資をとりまとめ、文字通り、ベンチャー企業に対する投資全体をリードします。また、ベンチャー企業に派遣される取締役は、このリード・ インベスターとなるベンチャーキャピタルから派遣される可能性が最も高いといえます。リード・インベスターは、ベンチャー企業の成長に伴って変わることも あります。特に、新しい投資家がリードをとることは、既存投資家の評価に第三者の視点を加えることになり、企業価値評価の正当性を高めるという役割を果た すことにもつながります。

参考文献

•“The Money of Invention”, Gompers, Lerner, Harvard Business School Press, 2001
「アントレプレナーファイナンス」(リチャード・L・スミス他著、忽那憲治他監訳、中央経済社)

※1)“The Money of Invention”, Gompers, Lerner, Harvard Business School Press, 2001
※2) 「アントレプレナーファイナンス」(リチャード・L・スミス他著、忽那憲治他監訳、中央経済社) 図表14-7
※3) 「アントレプレナーファイナンス」(リチャード・L・スミス他著、忽那憲治他監訳、中央経済社)


上田嘉紀氏

中小企業診断士。95年、京都大学(電気・修士)卒業後、関西電力にて、原子力発電、エネルギー関連の新規ビジネス立ち上げを経験。その後、スタンフォード大学に客員研究員として渡米。2005年1月現在、グローバル・カタリスト・パートナーズに在籍。
ブログ:Entrepreneurshipを探る旅



記事についてのお問い合わせは、info@svjen.org まで。