第3回:ベンチャーキャピタルが投資したくなるビジネスプラン

上田嘉紀氏

ビジネスプランは、ベンチャーキャピタルとベンチャー企業のコミュニケーションのツールの一つです。今回は、このビジネスプランについて、効果的なビジネスプランとはどのようなものか、また、ベンチャーキャピタルはどのように見ているのかということをご紹介します。

1.効果的なビジネスプランとは

投資したくなるビジネスプランには、「今、何が問題となっているのか。いかにその商品やサービスが問題を解決するのか。なぜその商品やサービスを提供でき るのか。いつまでに、なにを、どこで、どうやって達成するのか。そのためにはどれだけの費用がかかるのか。売上はいつの時点でどの程度になるのか。」と いったことが、簡潔かつ明確に表現されています。例えば、「何が今、問題となっているのか。いかに、その商品やサービスが問題を解決するのか。」という点 については、コアとなる技術やサービスの特性を踏まえた上で、既存市場や潜在顧客が抱える問題点やニーズが明示されており、また、「なぜその商品やサービ スを提供できるのか。」という点については、これまで競合他社が実現出来なかった原因や、自社の技術の優位性や差別化ポイントなどが、明確な理由とともに 説明されています。

効果的なビジネスプランを作成するための早道はありません。ビジネスプランの書き方に関する書籍やウエブサイトは、数多く存在しています。また、金融機関 やベンチャーキャピタルによっては、テンプレートや書式を用意してくれていることもあります。日本の場合、独立行政法人の中小企業基盤整備機構や各地域の 中小企業・ベンチャー総合支援センターなどでアドバイスを受けることもできます。(※1)ま た、信頼できる人に見てもらってアドバイスを受けることも有効です。このようなアドバイスなどを参考にして、しっかりと時間をかけ、さまざまな角度から検 討し、必要の都度書き直すという地道な作業の繰り返しが必要です。なお、起業家が効果的なビジネスプランを作成するには、最低でも200?300時間の時 間が必要だと言われることがあります。(※2)

※1)
中小企業基盤整備機構 http://www.smrj.go.jp/index.html
中小企業・ベンチャー総合支援センター http://www.smrj.go.jp/center/head/index.html
都道府県等中小企業支援センター http://www.chusho.meti.go.jp/shien_shindan/todou_sien.html
※2)“New Venture Creation”; Timmons, Spinelli; McGraw-Hill/Irwin, 2003


2.エグゼクティブ・サマリー

ビジネスプランの審査の第一ステップは、そのエッセンスが盛り込まれたエグゼクティブ・サマリーに目を通すところから始まります。エグゼクティブ・サマ リーから読み取ることは、ビジネスの内容ですが、それと同時に、「サマリーの作り方に、その企業家のコミュニケーションスキルが現れてしまう(※3)」と言われるように、起業家の人となりの一面を垣間見ることもあります。

※3)「企業支援銀行(コンサルティングバンク)」(長野慶太、金融財政事情研究会)

米国のベンチャーキャピタル約250社に対するアンケート調査によれば、このエグゼクティブ・サマリーに対して、以下のような回答が寄せられています。


図1:ベンチャーキャピタリストからみたエグゼクティブ・サマリーに対する見方



[“Inside Secrets to Venture Capital”; Hill, Power; John Wiley & Sons, Inc., 2001, p.67のデータより作成]



この結果にも示されているとおり、「明確でない」という回答が24%、「長すぎる、簡潔ではない」という回答が22%と、この2つで全体の半分弱を占めて います。これらは内容に入る以前の問題です。なぜこのビジネスが成功するのか、なぜ良い投資だといえるのかといった点を、明確かつ簡潔に伝えることによ り、ベンチャーキャピタリストの関心を惹き、ビジネスの内容に踏み込んでもらうきっかけを作ることが、効果的なエグゼクティブ・サマリーだといえるでしょ う。

なお、図1のアンケート結果は、エグゼクティブ・サマリーに対する回答ですが、これらの回答は、ビジネスプランの内容に対してもいくつかの示唆を与えてく れています。例えば、「焦点が絞り込まれていない」という回答は、自社の優位性がはっきり認識されていなかったり、対象とする製品やサービス、あるいは顧 客が曖昧だったりといったことに、また、「企業の価値評価が非現実的」という回答は、競合他社の状況を十分理解していなかったり、バリューチェーンや市場 環境を十分理解していなかったりといったことに関連しています。ビジネスプラン作成にあたっては、このような点も注意することが大切です。

3.「市場」と「人」の大切さ

図1のアンケート結果の中の「経営陣の情報が不十分」や「市場に比べて製品を重要視しすぎ」という回答は、ベンチャーキャピタリストが、「技術」そのもの ではなく、「市場」を見据え、「人」という要素を重視して投資しているということを示唆しています。実際、ベンチャーキャピタリストがビジネスプランを審 査して「No」という原因は、「市場が小さすぎる」「優位性が無い」「戦略が貧弱」といったビジネスプランの内容に関連するような回答を大きく上回って、 マネジメント力不足という「人」に起因するものが4割を占めるというデータもあります。


図2:ベンチャーキャピタリストがNoという理由



[“Inside Secrets to Venture Capital”; Hill, Power; John Wiley & Sons, Inc., 2001, p.111のデータより作成]



4.「ベンチャーキャピタルの投資戦略」という審査基準

図2のグラフの中で2番目に多い「審査基準に合わない」という回答については、起業家が、ベンチャーキャピタルならどこでもいいといわんばかりにビジネス プランを送りつけているところに大きな原因があるようです 。ベンチャーキャピタルには、それぞれ、自分達が得意とする技術分野・市場やベンチャー企業のステージ、投資規模、地理的な所在地などがあります。このよ うに、自分達が得意とする点を最大限発揮することができるような投資先を選ぶというのが、ベンチャーキャピタルの投資戦略といえるかもしれません。

この投資戦略は、審査基準の一角を占めていますので、ビジネスプランは良いけれども投資するのは難しいというケースも出てきます。しかし、そんな場合で も、ビジネスプランの質が高ければ、有益なアドバイスをもらえたり、別のベンチャーキャピタルを紹介してもらえたりと、次につながる可能性は高くなります ので、効果的なビジネスプランを作成することは、ベンチャーキャピタルから資金を調達してベンチャービジネスを始めようとする上では大切なステップといえ るでしょう。

なお、ビジネスプランは、手当たり次第にベンチャーキャピタルに送るのではなく、なるべく、ベンチャーキャピタリストが信頼している人に紹介 (referral)してもらうようにすることが大切です。なぜならば、それによって起業家の信用度が格段に高まり、ビジネスプランも他のものよりも真剣 に読んでもらえるからです。実際、このような紹介者を得るということは、起業家の実力の一つであり、ベンチャービジネスが成功するための大きな要素になっ ているといえるでしょう。

参考文献
•“Inside Secrets to Venture Capital”; Hill, Power; John Wiley & Sons, Inc., 2001
•“New Venture Creation”; Timmons, Spinelli; McGraw-Hill/Irwin, 2003
•「企業支援銀行(コンサルティングバンク)」(長野慶太、金融財政事情研究会、2004)


上田嘉紀氏

中小企業診断士。95年、京都大学(電気・修士)卒業後、関西電力にて、原子力発電、エネルギー関連の新規ビジネス立ち上げを経験。その後、スタンフォード大学に客員研究員として渡米。2005年1月現在、グローバル・カタリスト・パートナーズに在籍。
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