吉川 欣也 (よしかわ よしなり) 氏 (Miselu Inc)



吉川氏略歴
1990年法政大学法学部法律学科卒。日本インベストメント・ファイナンス株式会社 (現エヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ株式会社)、ニューメディ ア専門のシンクタンク株式会社プロトコルを経て、1995年8月に株式会社デジタル・マジック・ラボ(DML)を設立。コンパック、FedEX、ファミ リーマートなど大手企業のWEB構築を手がける。
DMLの社長・会長を歴任し2001年7月退社。1999年9月に米国・San Jose,CAに設立したIP Infusion Inc. (次世代ネットワークソフトウエア開発) のCo-founder and VicePresidentを務め、2005年に同社を$50MでAccess社に売却。その後、2008年4月にMiselu Incを Mountain View, CAに設立。


「起業家は勝手に起業する。起業家は育成するものじゃない」現在3回目の起業にチャレンジしている吉川氏はそう言い切る。シリコンバレーに来たきっかけは 単純で「ハイテクメジャーリーグのシリコンバレーに憧れて」だった。現地のコネクションが殆どなかった吉川氏であるが、IP Infusionという会社を立ち上げ、日本にあるネットワークを最大限に活用し、米国投資家から$20.4Millionの資金調達に成功した。シリコ ンバレー流ビジネス経営を徹底し、経営陣は共同創立者であった石黒氏以外は全員non-Japaneseで固めた。経営陣が日本人である利点をあまり感じ なかったからだ。

1999年、シリコンバレーにIP Infusionを設立してから、寝る間も惜しんで働いた。シリコンバレーで起業する日本人の苦労が何か?など感じ取る暇もなかった。それから6年後に同 社をACCESSに$50Millionで売却することになるが、この成功の陰には創業以来のメンターであったIT-FARMの黒崎氏とATA Venturesの藤村氏という二人の大きな存在があった。「ベンチャー経営は、スポーツと同じです。どんなに優れている選手がいても、アドバイスをくれ るコーチがいなければ一流選手にはなれない」。これは吉川氏自身の言葉だが、シリコンバレーでの経験がなかった吉川氏を、この二人のコーチが成功に導いて くれたのだ。

売却後も2年間はACCESSに留まった。創立者として、売却先にシームレスに引き継ぎをするという重要な使命があったからだ。「会社を売却する前 後は、色々な意味で動揺が生じるし、相手にも会社の問題点がより明確に見えてくる。そういったところをきっちり整理するのが創立者の仕事」と吉川氏は語 る。だが一方で、起業することに自分の価値を見出している吉川氏にとって、新しいビジネスを始めたいと考えるのは自然であり、当然のことであった。
その新しいチャレンジが3回目の起業となるMiselu Inc.である。一体何をする会社なのか、ドクロマークのロゴだけが載っているサイトを見ても分からない。「カラオケ関連ビジネス」という話は聞いていたが、それはただの噂なのだろうか。

SVJEN:Miselu Inc.の概要を教えてください。

吉川:まだ話せないんですよ(笑)。一つ言える事は、年齢・性別・宗教・国とか関係なく、世界中の人が一生のうち一度でも使ってくれるサービス、またはプロダクトを作ろうと計画しています。

SJEN:カラオケ関連ビジネスだと噂を聞いていますが。

吉川:カラオケとはまだ決まってないです。最終プロダクトは全然違うことになっているかもしれません。

SVJEN:デモ製品のリリース時期は?

吉川:デモはいくつか手元にありますが、リリース時期はまだ決めていません。パテントの問題もあるし、お客さんを支えるサポート体制をきっちり作っ ておく必要もあります。世界中の人に使ってもらうためには、短期間で一気にマーケティングをしなければなりません。だからそれだけお金もかかる。今回の会 社は2、3年が勝負だと思っていますので、その短い間を走りきる感じですね。

SVJEN:Miselu Inc.のビジネスを思い付かれたきっかけは何ですか?

吉川::ビジネスは思い付きや閃きではありません。思い付きなんて皆あるわけです。思い付きをアイディアにして、アイディアをビジネスプランに落と し込む。ビジネスプランに落とし込む段階になると、もう思い付きじゃなくなっている。ポッと思い付いたものですぐ稼げるような魔法はないのです。

SVJEN:資金調達はシリコンバレーで行われる予定ですか?

吉川:そうですね。前の投資家に相談している最中です。周りの期待を裏切らないよう、常に上を行かないといけないプレッシャーの中で競争しなければ ならない。誤解を恐れずに言えば、起業家にとって投資金は「お小遣い」みたいなもの。自分達の「夢を実現するためのパッション」にどれくらいお小遣いをも らえるか、それで起業家の価値が決まると思っています。

SVJEN:今回が3回目の起業ということになりますが、起業家になられたそもそもの理由は何ですか?

吉川:起業が楽しいからです。起業したい!という思いがDNAに組み込まれているとも言えますね(笑)。時間やリソースが無限にあれば、やりたい事 でいっぱいです。10人規模の会社で満足する人は起業家とは言わないです。常に会社を大きくしたいと考えている、それが真の起業家です。100億の売り上 げのある会社と、1000億の売り上げのある会社とでは影響力が違う。起業家のレベルにもいろいろとあると思いますが、空まで届くような大きなプランがな いと、起業している意味がない。シリコンバレーに来たばかりの頃は分からなかったんですが、ここに住んでみると「俺達は本当に世界一になるんだ!これで世 の中を変えるんだ!」なんて本気で考えている人間が多いので面白いですね。もちろん結果は別ですけど。

SVJEN:ベンチャー企業の成功は、特に「人材」に左右されると思われますが、採用についてアドバイスはありますか?

吉川:全く分かんないですね。履歴書を見ても判断しようがない。僕は人材のプロではありませんので、そこの部分はその道のプロであるHRに全て任せていました。それでも、10人採ったら7人は外れると思います。

SVJEN:吉川さんの長所・短所を教えて下さい。

吉川:ジェネラルに全体を見て、世の中の流れをいち早くキャッチする事は得意だと思います。アクションを起したり、人を口説いたりする事も得意だと 思う。Miselu Inc.で自分の進化が見せられると思います。短所は、我慢強くないこと。僕は短気なのですぐイライラしてしまう。

SVJEN:ビジネスを行う上でのロールモデルがいたら教えて下さい。

吉川:いないですね。今までいろんな出会いがあり、数多くの人の影響を受けましたが、ビジネス上でのロールモデルになる人にはまだ巡り会っていません。それよりも自分のオリジナリティーを出すことをこころがけています。

SVJEN:シリコンバレー在住の日本人起業家の絶対数が少ないのはなぜだと思われますか?

吉川:メジャーリーグの例えで言うと、野茂は、最近引退しましたが、日本人としてのメジャーリーグのドアを開けてくれた存在であり、彼の成功があっ たからこそ、メジャーリーグでがんばってみたいと憧れを持ってこれまで多数のプレイヤーがアメリカに来たわけです。起業も同じで、こちらで成功した日本人 の起業家もしくはシリコンバレーでの起業が楽しいと思う人がもっと増えれば、自然にシリコンバレーに来る起業家も増えてくる。野茂は95年にデビューした けれど、今のシリコンバレーは80年代前半ぐらいの感じかな。80年代の日本に、どんなにメジャーリーグが面白いと話をしても、ヤンキースやドジャーズは 聞いた事があるくるらいで、その他どんな球団がどこにあるとか、どんなスター選手がいるとかは全くわからなかった時代ですよね。シリコンバレーにはグーグ ル、インテル、アップルやシスコ以外にもスター企業がたくさんあり、スター予備軍も虎視眈々と次を狙っています。市場は米国から中国やインド、ロシアや南 米など分散しつつありますが、シリコンバレーの影響力はまだまだ衰えないでしょう。もちろん業種によるとは思いますが、自分にとって世界を俯瞰する場所と して、シリコンバレーに変わる場所は今のところ見つかっていません。

起業家の話から少しそれるかもしれませんが、こちらに約10年近くいて気付いたことがあります。それは、日本人の起業家が少ないだけでなく、こちらの大手/ベンチャーを 問わずVPタイトルをもっている日本人が思ったより少ないことです。起業家が増える事はすばらしいことなのですが、同時にもっと優秀な学生たちがハーバードやスタンフォードなど、目的意識をもってMBAをとるなどして、こちらでガツガツと中国人やインド人たちに混じってエグゼクティブへはい上がってい く姿をみたいです。起業家はゼロを1にするのが好きですが、1を2にしたり、2を10にしたりする事が得意だとは限らない。そういった部分で起業家をサ ポートできる人がもっといたほうがいい良いと思います。シリコンバレーに常駐のVPのタイトルをもった日本人役員がこれから増えて、人材の底上げを手助け していく事も起業家の数と同様に大切だと思う。そういう人達が、結果的にも日本をどんどん底上げし、それを見て刺激を受けてシリコンバレーで起業するとい うシナリオにつながっていくのかもしれない。起業家は勉強してなるものではなく、育成するものでもありません。起業は楽しいからやるんですよ。起業家は勝 手に生まれます。起業家育成なんて大きなお世話です(笑)。

SVJEN:日本に戻って起業しようという将来的な計画はありますか?

吉川:全くないです。日本はもちろん大好きですが、少なくとも今やろうとしている事は、しつこいですが、シリコンバレーで起業するのがベストだと考 えています。インターネットだけでは時間や距離の壁はまだまだ超える事はできませんので。自分がこれからやろうとしている事を日本でやろうとすると、不思 議なくらい世界の市場が遠く感じます。残念ながら日本からやるよりも、シリコンバレーからやったほうが物事の進みが数倍早いんですよ。これは僕の提案です が、成田空港内にバーチャルな会社を作れるサービスがあればいいですね。空港でパスポートの更新や戸籍謄本、住民票の取得、メンテしておきたい日本の銀行 やカードの更新なども簡単にできたりできるとなおいい。成田空港にちゃんと美味しいレストランを作って、世界の起業家やエグゼクティブが集まる場所を提供 すれば、日本を素通りして中国やインドに飛び回るエグゼクティブを捕まえることができるかも。

SVJEN:最後に読者にメッセージをお願いします。

吉川:起業スタイルは様々だと思うけれど、まずはどんなことがあっても自分を信じることが一番大切だと思う。これは起業家に限った話ではないとは思いますが。もちろん、自分は、絶対に成功すると信じています。

あとがき
ギラギラしたようなエネルギッシュな感じではないが、自分のペースに人を巻き込み、魅了するのが得意なタイプだと感じた。実際に筆者も吉川氏のファンに なってしまった。好きな食べ物はうなぎだそう。理由は、美味しいうなぎがシリコンバレーで食べられないからだそうだ。もしかしたらビジネスチャンスかもし れない!?

(聞き手:ラッキーみちる、酒井宏ニ)

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