大澤弘治氏(Global Catalyst Partners)

SVJENウェブサイトの新コーナーとして「シリコンバレー起業家の輪」が始まります!本コーナーでは、現在シリコンバレーで活躍中の起業家にインタ ビューを行い、御自身の起業経験を通じて得られた知見から、現在のシリコンバレートレンド、起業という視点でのシリコンバレーと母国(日本)の比較、新し い起業家への期待やアドバイスなど、シリコンバレーと起業にまつわる様々な話題について大いに語っていただきます。また、インタビューした起業家の方に次 の起業家を御紹介いただき、この企画でシリコンバレーの起業家の輪を繋いでいきます。どんな話が飛び出すか、はたまたどんな起業家が登場するのか?こう御 期待です!

 記念すべき第1回は、本SVJENのPresidentでもある大澤弘治氏(Global Catalyst Partners)からスタートです。

大澤氏略歴
Global Catalyst Partners Managing Principal & Co-Founder(マネージング・プリンシパル 兼 共同創設者)。1985年に三菱商事へ入社。情報産業関連の事業開発や投資に従事。1993年から6年間、同社米国法人のパロアルト事務所にて、シリコン バレーの半導体・通信・コンピュータシステム関連のベンチャー企業への出資・ビジネスデベロップメントを展開。1999年にシリコンバレーにてベンチャー キャピタルのGlobal Catalyst Partners(GCP)を設立。米国を中心にアーリーステージのIT関連ベンチャーに積極的な投資を行っている。2005年には3号ファンドを設立 し、総額3億ドルを運用中。GCPのGeneral Partnerを務めるかたわら、米国の非営利団体であるJapanese Technology Professionals Association(JTPA)及びSilicon Valley Japanese Entrepreneurs Network(SVJEN)のボードメンバー並びに東京大学エッジキャピタルのアドバイザーなどを務める。慶應義塾大学理工学部卒業。東北大学工学研究科博士課程修了。


Q:ベンチャーキャピタリストから見た、シリコンバレーの投資トレンドをお聞かせください。
ベンチャーキャピタルが投資をする際は、市場の成長性であるとか、技術の差別化、競合に対する参入障壁、経営陣の質、将来に対するビジョンなどを考慮した うえで行います。そういった意味では、バイオ、ヘルスケア、WEB2.0の投資が盛んですが、WEB2.0に限っては3年前と比較すると華やかさがやや薄 れてきています。

Q:クリーンテック(環境関連技術)はどうでしょうか?
確かにクリーンテックの分野での投資は盛んになってきていますが、大半の企業がまだ基礎研究開発のレベルで、商用化までには10年から15年を要すると見 ています。ベンチャーキャピタルは5~6年でのリターンを考えるのが一般的ですが、長期投資として考えると、クリーンテックも注目すべき分野だと思いま す。

Q:シリコンバレーで起業されたきっかけを教えてください。
93年に駐在員としてシリコンバレーに出向になり、主に現地のベンチャー企業とのビジネスデベロップメントを6年間担当していました。この間、起業家、ベ ンチャーキャピタリストなどとのネットワークも随分でき、今のパートナーであるKamran Elahianとも仕事を通じて良い関係を築いていました。彼がNASDAQに上場させた2つの企業(NeoMagic、Centillium Communications)のスタートアップに協力し、日本市場への参入などで私が貢献したことを、彼は評価していたのでしょう。99年、私が帰国の 命を受ける直前にKamranから、「日本に帰らずに二人で何か新しいことを始めよう」と誘われました。その後シリコンバレーに残ることを決意し、どんな ビジネスを始めるのか、Kamranと4~5ヶ月かけて色々な可能性を検討しました。最終的にベンチャーキャピタルを立ち上げることに決めたのですが、私 もKamranもお互いにベンチャーキャピタルの経験はゼロでしたし、投資家からお金が集まるかどうかも未知数でした。「まぁやってみるか」という感覚で 始めたのも事実ですね(笑)。

Q:起業を決心されたのは、おいくつの時ですか?また、その理由は?
36か37歳頃だったでしょうか。自分の市場価値を強く意識していましたね。シリコンバレーに残って、成功実績のあるKamranと一緒に新しい仕事にチャレンジし、そこで得られるキャリアを踏まえた将来の自分の市場価値に期待したんです。

Q:起業した御経験を振り返って、ご自身長所と短所を教えてください。
自分の長所は楽観的という点ですね。起業してベンチャーキャピタリストとしてやっていくことは、実際つらいことも多いので、そうでないと前に進めないです よね。あとは、「しつこい」ところかな。良い意味でですよ(笑)。あきらめない性格ということでしょうか。これはパートナーのKamranからも学んだ点 です。一方、短所と言えるかわかりませんが、ベンチャーキャピタルの業界に対する不安は持っていました。プライベート・エクイティの世界は、人材の流動性 が小さいですし、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストは皆仲間である一方、競争相手でもある。狭い世界です。この業界のメンバーとして自分が認めら れるのかという不安は常にありましたね。

Q:ご家族にはどのように説得されたのですか?
企業人としての安定した収入を失うことは、家族を路頭に迷わす可能性もあるということです。子供のミルクが買えません、なんてこともあったかもしれないですよね。しかし妻が「あの時こうすればよかったと後悔だけはしてもらいたくない」と後押ししてくれたのです。

Q:シリコンバレーで起業するメリット、デメリットは?
ハイテクベンチャーっていうキーワードで言えばシリコンバレーは世界の中心ですし、野球で言えばシリコンバレーはメジャーリーグですよね。そこで力試しが できるというのは大きなやりがいだと思いました。もちろん、ここで得られる人脈や自分のトラックレコードにも期待できますよね。デメリットは、そういった シリコンバレーのトラックレコードなどを持っていない自分の経歴でしたね。私は帰国子女でもないので英語が得意なわけでもなかったですし、米国のビジネス スクールを出ているわけでもなく、そういった意味でビジネスに必要な人脈もあまり無い所に飛び込んで、当地のベンチャーキャピタリスト達と対等にビジネス するのは至難の業だと思いました。でも、シリコンバレーではリスクを取ってきっちりしたプロセスを踏んでいれば、結果がダメでも評価されます。それが失敗 を許容する文化でしょうか。シリコンバレーのメリットとも言えますね。もちろん、失敗して当然という無茶苦茶なことをやるなど、プロセスがダメなら全く評 価されません。日本とは違って、このような場合は非常に厳しいですね、シリコンバレーは。

Q:日本で起業しようとは思われなかったのですか?
思いませんでした。バブルがはじける前の99年のシリコンバレーはものすごい勢いでしたし、今その瞬間にシリコンバレーを離れてはいけないという気持ちも強かったですね。

Q:日本の起業環境は変わってきていると思われますか?
変ってきていると思いますよ。私の世代は終身雇用の世代。アントレプレナー(起業家)は特異点でしたよね。我々の世代のアントレプレナーというと松下幸之 助さんや本田宗一郎さんかな。身近な感じはしないですよね(笑)。だけど、今の若い世代の人たちには、アントレプレナーのロールモデルがある。自分にパナ ソニックやホンダが作れるかっていうと、最初から作れないって諦めますけど、Mixiが作れるかっていうと、作れるかもしれないと思う若い世代の人が増え てきているのは明らかですね。若い人にとって、自分のキャリアを設定する中に、「起業」も一つの選択肢として入ってきていると思います。

Q:日本の起業をサポートするインフラはどうですか?
日本は起業家を支えるインフラが整っていないのでベンチャーが育たない、という時代ではなくなってきていると思います。日本の起業家支援のインフラ環境 は、昔よりは整ってきているように思いますよ。新興株式市場もあるし、ベンチャーキャピタルも起業に詳しい弁護士も増えている。シリコンバレーの投資家は 自ら起業経験がある人が多く、日本の投資家は企業人が多いといった違いもありますが、それはあまり関係ないのではないでしょうか。昔の日本ではリスクを取 ると逃げ場無しという感じでしたが、今は失敗してもやり直せる状況に変わってきているように思います。もしかしたら、日本はイノベーティブなものが企業や 研究機関から外に出しにくい環境なのかも知れませんが、日本にいてもグローバルなビジネスを起業することは可能だと思います。市場やニーズに応じて起業す る場所を選ぶべきで、もちろん起業に必要なテクノロジーや資金調達を考えてシリコンバレーが最適であればそうすべきですが、日本が最適ということなら日本 で起業出来ないことはないと思います。

Q:日本経済にとってベンチャー企業は必要でしょうか?
ベンチャー企業が生み出す「イノベーション」というのは日本経済の発展において、大変重要な要素の一つだと思います。労働人口が減少するなかで、日本の競争力を上げていくことは不可欠であり、それを支えるのがベンチャー企業だと考えます。

Q:シリコンバレーはこれからどんな存在になると思いますか?
景気の浮き沈みはあると思いますが、今後もイノベーションのメッカとしての地位は変わらないでしょう。米国東海岸やイスラエルなどのポスト・シリコンバ レーと言われる地域とはまだ格差がありますね。中国やインドが新たなライバルになるかもしれませんが、シリコンバレーの求心力はまだまだすごいですよ。

Q:今後もまた別の起業にチャレンジしてみたいですか?
ベンチャーキャピタルというのは、4~5年に一度のペースでファンドを新しく立ち上げるので、その度に起業しているようなものです。いつもチャレンジしているということでしょうかね。

Q:大澤さんにとって、「起業」とはどんなイメージですか?
一言で言えば、「ワクワク、楽しい」(笑)。もちろん実際の起業で「ヤッター」と思う瞬間は少ないですよ。苦しいことの方が多いと思います。でも苦しいことも含めて楽しみたいと思いますね。

Q:最後に、大澤さんにとって一番大切なものを教えてください。
家族ですね。仕事も起業も家族の理解があってこそ、と思っています。また、自分のことを最も大切に考えてくれているのは誰かと考えると、やはり家族が一番に思ってくれていると思いますから。

(聞き手:ラッキーみちる、八木誠吾)


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