中野 浩司(なかの ひろし)氏

中野 浩司(なかの ひろし)氏


低価格の書籍電子化サービス「1DollarScan」の中野浩司社長
「『なりたい人』に出会えるシリコンバレー」


 あなたの大切な本を、1ドルで電子化します。日本で言う「自炊」代行のサービスを米国シリコンバレーで起業し、着々と知名度を上げている企業がある。「1 Dollor Scan」の名でサービスを展開するzLibro社だ。システム開発会社などで経験を積んだ中野浩司社長が2011年、友人3人と起業。「日本生まれ」のアイデアを米国で広め、低価格で高品質なサービスを展開している。中野社長に起業の経緯と、シリコンバレーの魅力について聞いた。

■ 100ページを1ドルで

手持ちの本を1ページずつスキャンして電子化し、省スペース化をはかる「自炊」。部屋が狭い日本では業者による「自炊」代行がポピュラーになっているが、米国では珍しいサービスだ。

Q. まずは、「1DollarScan」のサービス内容を簡単に教えてください

「顧客から電子化したい本を郵送で受け取り、PDF化してお返しするサービスで、顧客はiPadなどの電子機器で本を読むことができます。スキャンした本は最終的にリサイクルしています。最後、裁断してリサイクルに出します。100ページの電子化で基本料は1ドル。検索機能の追加や高品質スキャンなど、オプションメニューもあります」

Q. どういう方が利用していますか

「送られてくるのは法律や医学などの学術書や、IT関連の技術書などが多く、仕事や研究でたくさん本を読む人に人気があるようです。日本人駐在員が帰国時に持ち帰れない本を送ってきたり、楽譜や卒業アルバム、雑誌の注文も。ビジネスの書類も扱っています。顧客は米国にとどまらず、なかには学術書を定期的に大量に送ってくるイギリスのお得意様もいます」

■ シリコンバレー駐在、転職、そして米国起業へ

中野社長の起業のきっかけは、日本で2010年に代行業を始めた「ブックスキャン」(東京都)との出会いだ。「おもしろい」と感じた同社のサービスを、米国に輸入。現在は従業員約20人を束ねる社長だが、かつてはシリコンバレーに駐在したこともあるサラリーマンだった。

Q. もともと、どのようなお仕事をされていたんですか?

「大学の理工学部を卒業後、商社系のシステム開発会社に勤めていました。扱っている商品にシリコンバレーのものがあり、1998年からシリコンバレーに出張するように。2003~2006年には駐在員として赴任し、こちらのベンチャーを日本のビジネスにつなげたりする仕事をしていました。帰国してしばらくたった2008年、楽天に転職し、広告事業を担当しました」

Q. 転職後に、ブックスキャンのサービスを知ったんですね

「駐在員時代にシリコンバレーで知り合った投資家の友人から、『おもしろいサービスがある』と紹介され、ブックスキャンに連絡をしました。これを機にブックスキャンの事業に参加するようになり、2011年3月にこの友人やブックスキャン社長らとともにzLibro社を設立。同年8月に米国でサービスを始めました。ブックスキャンでは役員も務め、主に海外展開を担当しています」

当初、zLibro社はサンノゼにあるJETROのインキュベーション施設「BIC( US-Japan Business Innovation Center)」(すでに閉館)に入居。その後、サンノゼ市内の現在の事務所に移転。作業室には分厚い本の背表紙を一気に切り落とせる裁断機1台と、スキャナーがある2台。その奥が倉庫で、本が詰まった段ボールがずらりと並んでいる。

■ 低価格、高品質の強み

「1 Dollar Scan」の強みは、サービス名にもあるように1ドルから注文できる気軽さと、快適な読書を支える質の高さだ。

Q. 低価格、高品質を保つ秘訣は何ですか?

「それぞれの本の作業工程をiPadで管理し、一目で進捗状況が分かるようにしているので、かなり作業の無駄が省けています。ライバル社もいますが、当社の価格は5分の1から50分の1です。また、従業員約20人のうち、半分はページの脱落など仕上がりを最終チェックする在宅の従業員。現地駐在員の奥様らが重要な戦力となっています」

Q. 権利関係の訴訟が絶えない米国。サービス開始に不安はありませんでしたか?

「日本でも代行業者の著作権の扱いが問題になっており、その点ははじめからシビアに考えていました。私的利用の範疇でサービスを提供していますし、著者、出版社などにサービスの開始を事前に知らせ、デジタル化を拒否する著者の本は扱わない、本は裁断してリサイクルに出し、決して返さないなどを徹底しています」

Q. まだまだ顧客の開拓余地はありますか?

「出版される本のうち、電子化されているのはわずか数パーセント。本をたくさん持っている人はまだまだたくさんいるので、今後いろんな利用方法を提案していきたいです」

■ シリコンバレーの魅力、そして将来は・・・

Q. ところで、なぜ、シリコンバレーを起業の地に選んだのでしょうか

「投資しやすい税制など起業支援の制度が整っているほかに、起業家の『エコ循環システム』があるからです。シリコンバレーには起業して大成功した人がたくさんいる。彼らはやがて、若い起業家を支援する投資家になる。それに、成功した人やアイデア豊かな人、『こんな人になりたい!すごい!』と思える人に会える街なんです。レストランやカフェで、いろんな場所で素晴らしい出会いがあります」

Q. シリコンバレーでの出会いを1つ、紹介してくれますか?

「隣の事務所で輸出事業をしている日本人の男性と会えたのは幸運でした。こちらでサービスを始めたころ、『何かおもしろいサービスをしている』と感じた彼が連絡をしてくれ、その後、彼の事務所の隣に移転。今も日々交流し、今度新しいことをやってやろう、と画策しているところです」

Q. それはとても楽しみです。競争の激しい米国社会で、息苦しさは感じませんか?また事業を始めるとき、不安になりませんでしたか?

「もしだめなら日本に帰って、また新しい仕事をするだけ、と考えて不安ではありませんでした。シリコンバレーではみな楽しみながら働いている気がします」

Q. とどまるところを知らず、着々と将来を切り開いていく中野社長。今後の道筋はどう描いているんでしょうか

「最近はよく日本人の若い人が弊社を見学しに来てくれるようになり、そんな方に話をすることが楽しいです。自分もゆくゆくはこういう若い起業家を育てる仕事ができたらと思っています」

筆者・聞き手 佐野敦子