Vison Booster 曽我 弘 氏

 

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           2009年Santa Cruzハーフマラソン完走時の写真(2時間30分)

 

曽我 弘(そが・ひろむ)氏 【略歴】
1985年以来新日鉄エレクトロニクス事業部でコンピュータ周辺機器事業の事業化を推進。3Mをはじめ数社の米国企業とのジョイントベンチャーを設立、その日本での事業化を担当。新日鉄退職後、1991年シリコンバレーに移住し、画像圧縮技術開発のベンチャー企業Eidesign Technologies, Inc.を設立。その経営にあたる。 MPRG-2画像圧縮ベンチャー企業Zapexを経て、1996年日本のエクシング(株)にてMPEG-2ビジネスを立ち上げた後、1996年秋 にSilicon Valleyにて個人でSpruceTechnologies, Inc.を設立。米国人とドイツ人エンジニア3名を中心にて革新的な DVDオーサリングシステムを開発・商品化し、今日のDVD普及の一翼を担った。そのFlagship商品「DVDMaestro」はハリウッドでのデ ファクト標準になり、世界各国で多くのDVDタイトルの出版に利用され高い評価を得て、20016Apple Computerへ売却する。その後SVJENの設立に参加し、同時に20024月に日本人若手エンジニアと共にシリコンバレーで4R目のスタートアップに挑戦したが、日本式の着メロ・ビジネスでは米国で上手く機能せず、2006年事業中断。その後、バイオ関連の企業支援、現在はSVJENのメンターとして日米のスタートアップ企業の支援活動をしている。
 

Board member of Japan Society, Northern California
静岡大学工学部卒
東京大学より工学博士授与

日本ではなくシリコンバレーで起業をしようと思ったきっかけは何ですか?

 ⇒大きく分けて3つ理由があります。第一の理由は、事実上、日本では起業が難しかったからです。私の定年退職当時(1990年頃)、日本では様々なしがらみが根強く存在していました。退職直前までは、私は日本で起業をしようと思っていましたが、当時は会社を辞めると言うこと自体が非常に大変でした。会社を辞めようとすると「何の不満があって会社を辞めるんだ。」と言われたこともあります。『定年退職後で自由の身になれば、起業できるだろう』と思いましたが、その当時は定年退職をした人に投資してくれる環境ではなく、日本での起業は事実上非常に難しい状況でした。

第二の理由は、『自分のアイデアを一度自分のやり方で実現してみたい。』と思ったからですね。会社の同僚や社外の友人は親身になって経験のないシリコンバレーでの起業に就いて心配してくれました。しかし私は定年を迎えて自由になりましたので、起業をして失敗するリスクを心配するよりも自分アイデアにチャレンジしたいという気持ちの方がとても強かったですね。

もう一つの理由は、技術系の会社を興すのであれば、シリコンバレーが一番適していると考えたからです。私にはシリコンバレー以外に行くことは当時考えられませんでした。現在なら、中国、インドという選択肢もあると思いますが、20年前にはその選択肢はありませんでした。それと私はそれまで海外での生活経験が一度もなかったので、一度海外生活を体験したいと言う思いもありました。

シリコンバレーで起業をしたいと思っている起業家志望の方は非常に多いと思いますが、シリコンバレーのどんなところに魅力を感じますか?

 ⇒1つ目の魅力は、日本にあるようなしがらみがなく、考え方が非常にオープンな点です。シリコンバレーでは色々な国から来ている優秀な人達が一緒になって、大きな目標に向かって仲間を集めて起業すると言うのが普通のパターンです。2つ目の魅力は、シリコンバレーには、中国、ベトナム、台湾、ヨーロッパ、韓国、ロシアなど世界中から優秀なエンジニアが集まってくるので色々な分野で良いチームを作りやすくワールドワイドな発想ができる点です。例えばある商品を企画するときに「最初から世界の市場」を考えます。つまり世界各国が最初から顧客として視野に入ります。それによって国内市場だけを考えるより市場規模が大きくなります(例:最低日本の4倍~5)ので、ビジネスプランがそれだけ作りやすいとも言えます。3つ目の魅力は「起業のインフラストラクチャー(エコシステム)」が良く出来ている点です。つまり、ベンチャーキャピタル、会計事務所、法律事務所、プロフェッショナルなコンサルタント、大学等が手の届く範囲にあるということです。たとえば、自分が技術的な問題を解決したいということであれば、必要ならStanfordUC Berkeleyの専門教授の意見を聞くこともできます。もちろん、話を聞く前に自分のやりたいことを「明確に」する必要があるのは言うまでもありません。それと、気候が非常に良いということもシリコンバレー魅力の1つとして挙げられますね。
 

ビジネスプランを作成する上で重要なことは何でしょうか?

 ⇒ビジネスプランを作成する上で重要なことは、起業で対象にしている分野の「プロブレム(問題)」とその「ソリューション(解決策)」を事前にきちんと調査して正確に把握することです。「プロブレム」とは、「顧客のニーズ」を指し、「ソリューション」はもちろんその解決策と言う意味です。ここで大事なことは、問題の解決策の「効果の大きさ」です。痛み止めの薬のように、「今すぐそれが欲しい」という新商品である必要があります。これは全く新しい商品、サービスの場合もありますし、既存の商品の改良の場合もあります。例えば、ある他社製の装置がすでに市場にある。ただ、非常に使いにくい。これに対して新製品は非常に使いやすい、または処理時間が圧倒的に早い、値段も他社製品より格段に安い(例えば5分の1とか10分の1)と言った効果があると言う事です。それが実現出きれば、当然、顧客はあなたの商品を買いますよね。これが、私の指す「ソリューション」です。既存の商品と比較し効果が「多少性能が良い」と言う程度であれば、それは私の言う「ソリューション」ではありません。 

これらをベースにして具体的にどのようにビジネスを展開して、最後にこの会社をどのような形で「Exit( IPOまたはM&A)するのかを明確にして投資家に分かりやすく書いたものが「ビジネスプラン」です。商品開発のコンセプトなどで言えば直近の例でAppleiPadは非常に良い例だと思います。AmazonSonyE-bookに比べて圧倒的多機能で使いやすい製品だと思います。今既製品に欠けている機能(問題点)をどう分析して、どんな形でiPadがそれを実現して(ソリューション)きたのか、今後これらをどんなビジネスモデルで展開しようとしているのか、こう言った商品をモデルケースにして考えてみると非常に参考になるのではないかと思います。 

◆起業家に必要な要素は何だと思いますか?

 ⇒色々な要素がありますが、起業家に必要な重要な要素の一つは、創業者の熱い情熱に加えて「マネージメント力」です。技術さえあれば起業できると思っているエンジニアが多いのですが、それは大きな勘違いです。たしかに技術は必要ですが、それ以上にマネージメント能力が必要になります。そのためには一人で全ての役割を担うよりも良いチームを作って開発、マーケッティング、販売等を計画通り実行できるメンバーを仲間に入れる事が必要です。実際、投資家の中には起業家に対して第一に「マネージメント」次に「マーケット」最後に「テクノロジー」という人もいます。技術だけでは事業は成功できません。そして、開発さえ出来れば商品は売れるという発想も間違っています。肝心のビジネスをするという視点が抜けてしまっているからです。「Yahoo!」や「Google」も技術だけで成功しているわけではありません。マネージメント力が成功の最大の要因と言えます。

◆起業後、ビジネスで失敗経験はありますか?

 ⇒あります。アメリカで「着メロのビジネス」を始めたことですね。着メロは2002年、日本で非常に流行っていました。アメリカでも日本と同じように流行ると思っていましたが、間違いでしたね。失敗理由は、大きく分けて2つあったと反省しています。一つは、日本とアメリカにおける着メロのビジネスモデルの違いです。日本の場合、電話会社が10%の手数料をとり、残りの90%を私達プロバイダー(着メロ制作会社)が受け取るという非常に魅力的なビジネスモデルでした。しかしアメリカの場合、電話会社の手数料が年々増加していきました。例えば、最初の年は20%だけれども翌年は40%そして翌々年は50%というように極端に増加したのです。これではとてもプロバイダーは収益を得ることはできませんでした。

二つ目の壁は、著作権という大きな問題でした。日本には「JASRAC」という組織がありますよね。日本の場合、 着メロの著作権の利用許諾はJASRACと契約すれば、殆どの曲は利用が可能です。ところが、アメリカではJASRACに相当する組織はありません。一つの曲に対して特定の個人や複数の人が著作権を持っていることが多いのです。一つ一つの曲について著作権乗利用許諾をとることが非常に難しく、多額のお金と時間がかかる上、一つの曲が売れたら、今度は個別に著作権料を支払う必要がでてくる等、著作権の支払い業務が複雑でコストが大幅にかかりました。

日本は事務手続きが比較的簡単ですが、アメリカの場合は事務手続きが非常に複雑なのです。日米の文化の違いに悩まされ、ビジネスモデルの構造上の問題で失敗してしまいました。日本からアメリカに参入した着メロ企業は殆ど撤退を余儀なくされたと言っていいかも知れません。

◆スティーブジョブスの印象を聞かせてください。

 ⇒私の設立した会社 (Spruce Technologies, Inc.)2001年にAppleに売却した時にスティーブジョブスとマンツーマンで最後の交渉をしたことがありましたが、とても個性的で魅力的な人ですね。意思決定も非常に早く重要な判断は彼がその場で決定しました。ワンマン経営者ですが、商品企画やマネージメントに関しては天才的なワンマン経営者として有名なのは皆さんご存知の通りです。彼は、「Spruce」の技術と商品を非常に高く評価してくれ「今更評価は不要」といって3日目に彼と会った時の交渉は実にフランクで1時間ほどの話し合いで基本合意に達しました。ちなみに、「Spruce」にいた主要な技術者やスタッフは、現在も「Apple」で活躍し、成功しています。また、「Apple」から発売されているDVDに関する商品には「Spruce」の技術が使われているんですよ。

◆最後にこれから起業される方あるいはすでに起業されている方へのメッセージをお願いします。

 ⇒シリコンバレーには色々なチャンスがあります。良いアイデアがあれば「仲間」を探してください。日本人だけのチームを作るより、シリコンバレーに在住している多国籍の優秀なメンバーを含めて強力なチームを作ってください。ただ、技術だけを追求するのではなく「プロブレムとソリューション」をきちんと考えることが大事です。「マネージメント」「マーケッティング」それと「技術」の3要素のバランスが成功するためには非常に重要になることを忘れないでください。

聞き手&筆者: 唐松 祐太