金子 恭規 氏(Yasunori Kaneko, MD)

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(略歴)
1981年から米国のライフサイエンス企業の経営、ファイナンスに携わる。米ジェネンテック社のマーケティングマネジャーとして、同社がはじめて販売まで手がけたヒト成長ホルモン、プロトロピンのマーケティングに従事、創業期の事業拡大に貢献した。1987年よりパリバ・キャピタル・マーケット東京支社の投資銀行部門において、ユーロ市場における日本の政府機関、地方自治体、企業の資金調達の支援をした。この間、米ライフサイエンス企業のファイナンスを多数手がける。その後、米アイシス・ファーマシューティカルズ (サンデイエゴ)で、上級副社長兼CFOに就任、在任中に株式公開も果たす。1992年、米テュラリック社(現在、米アムジェン社と合併)の設立時に役員就任を要請され、1999年に同社が株式公開をするまでの間、CFOBusiness Development部門の責任者として活躍、ファイナンスと事業の戦略提携に手腕を発揮する。同時に、LeukoSiteの社外取締役として創設時よりMillennium Pharmaceuticalsとの合併までの間、貢献した。1999年12月、バイオテクノロジー投資専門のベンチャーキャピタル、スカイライン・ベンチャーズを共同で設立した。慶応大学医学部卒、スタンフォード大学経営学修士号取得。

(インタビュー本文)
Q: 現在はどのようなお仕事に取り組まれているのでしょうか?

今から約10年前に仲間と共同で立ち上げた、Skyline Venturesというベンチャーキャピタル(VC)の運営をしています。このVCは、ヘルスケアの分野に特化して投資を行っており、現在5つのファンドを運用しています。私を含めてパートナーは6人で、PhDMDを持っているメンバーばかりです。専門的なバックグラウンドを有するメンバー達とやってきて、結構楽しくやっています。。Skyline Venturesはヘルスケア分野のベンチャー投資会社としては、非常に成績が良く、トップランクに位置するVCに成長させることが出来たと思っています

Q: 現在運用されているファンドの規模はどのくらいですか?

現在運用中のファンド総額は約$850Mで、5つ目のファンドが昨年立ち上がったところです。その5号ファンドでは、$350Mの資金調達を行いましたが、短期間でクローズしました。これまでの成果を評価してくれている4号ファンドの投資家などが戻ってきたり、米国の有名大学のEndowment Fundなどが出資を決めています。

Q: 今後もSkyline Venturesを中心にご活躍されるのでしょうか?

Skyline Venturesに対して、自分の生活の25%だけを今は注いでいます。残りの75%は別の事に向けています。それには2つの理由がありまして、一つは若いときから55歳までに引退して、経済活動以外に自分の生活を移行させていくことを考えていたからです。ちょうど今55歳になりまして、その時期が来たというところです。もう一つは、経済活動に対する自分自身の興味が半減してしまったこと。若い時に感じた、「この技術やこのビジネスで世の中を変えてみたい」、といった興奮が失われています。

Q: Skyline Venturesの今後の運営はどのようにお考えですか?

ファンドの資金調達から償還まで含めて10年も順調に続いてくれば、VCとしてはもう今後Auto Cruise(自動操舵)でやっていけると思います。これまでのメンバーに加えて、若くて優秀な人たちが集まってきますし、良い企業家や良いディールも自然に集まってくるようになる。ですから、これからは次の世代を社内で育てていくようにしようと思っています。

現在、次の世代のリーダーとして、二人の若者の候補者を考えています。一人は、スタンフォードでPhDを取り、既に数年前に会社を起業した30歳過ぎの若者。彼のことは前から知っていて、是非我々のチームに入れたいと考えていました。しかし、私は彼に色んな視点を持ってほしいと思ったので、直ぐに我々のチームに来るのではなく、ビジネススクールに行くことを薦めました。組織の中で、年配の人間が上に立ってくると、どうしてもCeilingがあって若い人が伸びないですよね。だから組織の外に飛び出せ、とアドバイスしたんです。彼も同意して、今はスタンフォードのビジネススクールに通っています。もう一人は女性で、ハーバード大学のビジネススクールに通っており、現在二人ともサマーインターンとして我々のところに来てくれています。自然と優秀な人たちが集まってくるようになったことは、素晴らしいですね。後は40台のインダストリーでの経験のある人を2人ぐらい雇いたいですね。

将来は彼らのような若い人たちに徐々に任せていきたいと思っています。特に投資案件の発掘など最初のフェーズは彼らに完全に任せて、我々シニアのパートナーは、投資先の絞込みが進んだ次の段階以降で参加するような形になるでしょう。

Q: 先ほど、若い頃の興奮が起こるようなことがなくなってきた、とおっしゃっていますが、ヘルスケア分野を俯瞰して、どのように現状を見られていますか?

メディカル分野は、既に勃興期を過ぎたと感じています。私は1981年からこの分野を見てきましたが、ここ5,6年で非常に成熟した感じですね。昔私がジェネンテックで携わったような革新的なプロジェクトは見当たりません。もちろん技術は確実に進歩していますが、世界を変えるような大きな進歩ではないですね。

Q: 成熟してきたヘルスケア市場は、今後どのような方向に向かうとお考えですか?

ヘルスケア分野の発展は、アメリカの市場を中心に起こっています。これは今後も変わらないでしょう。なぜなら、アメリカだけは医療制度が完全な自由市場に近いからなんです。非常に良い技術、良い医療が出来ると、それを実際に提供するには本当にお金がかかるものです。病院の集中治療を受けようとすれば、ドクター、ナース、高額な機器使用などに対して費用がかかります。アメリカの医療制度では、この高額な医療を受けた人から直接収益を上げます。もちろん保険会社が中にはいっていますが。そこから生まれる利益を、さらなる技術開発や市場へ投資還元する訳です。そして新しいイノベーションが次々と生まれてくる。ヘルスケア分野におけるアメリカの強い競争力は、こうやって生み出されているのです。ヨーロッパや日本などでは健康保険等、大部分が公的な資金によって医療負担されている面があり、自由市場ではありません。私がヘルスケア分野の経済活動に興奮を感じてきたのも、このアメリカの仕組みがあってこそだと思います。

けれども最近は、医療が市場メカニズムを利用することが本当に良いことなのかどうか、と考えるようになりました。医療は、経済性に余り依存することなく、本当に必要としている人達に満遍なく行き渡るのが理想なんです。アメリカのヘルスケアマーケットの発展を自ら推し進めてきた者として、自己否定する面はありますが、世界の医療は非常にバランスが崩れていると感じます。医療や薬品が本当に必要な地域は、アフリカなどの健康状態の悪い貧しい国ですよね。でも経済活動によっては、そちらに製品が行くことはありません。

同じような考えを持つ人も、周りに増えてはきました。例えば、病気を治すことが困難だとしても、予防するためのワクチンをアフリカに提供することはできる。実際には、良いワクチンが出来ても直ぐにまた新しい感染症が発生して、人類と感染症の歴史は常にイタチごっこです。ですが、やはりワクチンの開発はしていかなければならない。そこにゲイツ財団のように、マーケットフォースではない医療への関わり方を示す人たちが出て来ているのです。彼らの資金力は非常に大きい。このムーブメントは、とても影響力があると感じています。自分が全く同じことを始めるというわけではないですが、最近はこうした事を勉強しているところです。

Q: 最近では、社会起業家(Social Entrepreneur)も増えていると聞きます。

私はまだ具体的に活動している訳ではないので、なんともいえません。ただ、身近なプロジェクトで、カンボジアでの小児病院に参画をしたりしています。私の友人でニューヨークに住む写真家が始めたプロジェクトです。彼は1990年頃よりカンボジアの人々、自然を写真に収めてそれ紹介してたのですが、それだけではカンボジアからTakeするだけではないか、と疑問に思うようになったのです。何か是非Give backしたいと考えた彼は、最初は少しのお金でカンボジアに病院を立ち上げ、現在ではかなりの規模にまで拡大させています。これは経済活動ではありません。私もシリコンバレーの知り合いにこのプロジェクトへの協力を仰ぎ、寄付を集めたりしています。幸い、シリコンバレーの仲間たちは非常に協力的で、年間に寄付金も随分集まります。 2006年に現地に私も家族と一緒に行きました時は、感激しました。http://www.fwab.org

Q: そのような活動が今後の金子さんの中心になるのでしょうか?

それはまだ分かりませんね。ただ、経済活動以外に関心が移っているのは事実ですね。他にも、スタンフォード大学ビジネススクールのアドバイザリーボードなども務めています。その他ビジネススクールには、学生とOBとのMentor program、という良い制度があって、登録しておきますと学生の関心事に応じてMentorとして選ばれます。ライフケアのビジネスやベンチャーキャピタルなどに関心のある学生に対して、一対一でアドバイスを与えたりしています。さらにスタンフォードでのイベントにたまに招待されることもあって、これは非常に有意義ですね。普段会えないような著名人のスピーチを聞く機会にもなりますし、殆どグルーピーに近いですね。

Q: シリコンバレーで活動をされていて感じられている、最近の技術トレンドについてお聞かせください。

私はヘルスケア分野に特化してやってきましたので、WEB2.0の世界などは良く分かりませんね(笑)。FacebookLinkedInなども参加しましたがFriendが増えないので、あまり使っていません(笑)。
全体的に、どの産業のテクノロジーもかなりMatureになってきたのではないでしょうか。1980年当時のAppleのスティーブ・ジョブズやジェネンテックの勃興期を知っているので、そういう時代と比較してしまうと、今の技術トレンドはどれも成熟した感じを受けます。
 

そんな中で面白いと思うのは、グリーンテックですね。エネルギー分野ですので、なかなか成功事例が出ていない状況にあるのかもしれませんが、過去を見れば、半導体チップやバイオテックも勃興期に至るまでには結構時間がかかっているものです。グリーンテックも同じではないでしょうか。もし自分が今2030代だったとしたら、この分野に入っていると思いますね。若いときはやはり自分の仕事でエキサイトしたいじゃないですか。自分の力で世の中の仕組みをゴロッと変えるようなことがしたいでしょう(笑)。今ならグリーンテック分野にその興奮があるように思います。

技術トレンドではないですが、注目すべきは中国でしょうね。1960年代の日本のような感じで、経済成長が著しい。GNPが年率10%で伸びている状況は、間違いなく面白いですね。しかもマーケットが非常に大きい。トヨタの車販売ディーラーシップなんか買ったら、相当良いビジネスができますよ(笑)。もう遅いでしょうけどね。10年前なら面白いビジネスが出来たんじゃないかな(笑)。

Q: シリコンバレーにいる金子さんからご覧になった日本の現状について、ご意見を伺いたいのですが。

VCとしては日本への投資を行っていないので、正直なところあまり日本の状況を見ていないですね。

Q: 日本のベンチャーに投資をしていない理由は何でしょうか?

我々のVCは、投資先がシリコンバレー近傍に集中しています。というのは、投資した企業を自分たちの手をかけて大きくしていくためには、物理的な距離が非常に大きな意味があると学んでいるからです。過去にはシリコンバレー以外の企業への投資を実行しましたが、人と人の交流が直接できないと、どうしても我々の意見やアドバイスに企業側が耳を貸さなくなる。飛行機で10時間かけて行き来をするようなところだと、うまくいかない。ですから今の投資先はほとんどが車で2030分以内、あるいは飛行機で2時間以内に位置する企業です。日本はやはり遠いですよ。ヨーロッパも同様です。米国東海岸の企業でもそう感じますね。しっかり手をかけられるところにいる企業に投資する、というスタンスですね。


Q: バイオテック業界では、日本企業のプレゼンスは世界の中で低いようです。日本のバイオテックの企業が、成長機会をうまく捉えるためにはどうすればいいでしょうか?

まず「日本企業」という発想そのものを否定していかなければならないと思っています。実際に、日本発で日本単独のバイオテック技術というものは、もはや存在しないのではないでしょうか。論文や実験データは一瞬で世界中を駆け巡ります。それに同じような開発は、世界のどこかで同時に起こっているものです。色んな情報を世界中から集めて次のステップに進もうと、各企業が一斉に取り組んでいる。だから日本発にこだわっていても仕方ないですよね。そうやって次に開発をグローバルに行うようになると、マネージメントの部分もグローバルにしなくちゃいけない。そこを推し進める事で、チャンスが開けるのではないでしょうか。マネージメントのグローバル化は、バイオテック企業のみに限らず、あらゆる産業に当てはまるのでは。

Q: 企業のグローバル化をすすめる具体的な方法はなんでしょうか?

それは難しい質問ですね(笑)。例えば、シリコンバレーでは中国系やインド系の人たちが躍進していますよね。彼らを見ていると、とにかく自国を飛び出してシリコンバレーに来る。シリコンバレーに来ると、別に大きな成功事例に沢山触れられるわけではないけれど、とにかく成功例を間近で見る機会が出来るわけです。すると彼らは自分で事業をやり始める。それがまた成功して、新しい人がそれに触れて、というふうな循環が出来上がってきます。中国系・インド系の成功は、このような循環に支えられているのではないか、と思っています。これは必ずしも大きな成功を必要としているのではないと考えています。あと、インド人や中国人が国を出てくるのは、人口が多くて国内の競争が激しい事も一因のようですね。友人のインド人に、何で国に帰らないのって聞きますと、インドよりアメリカの方が競争が楽だから、って答えていましたから(笑)。

 

Q: 日本人も日本を出ていくことが大事だとお考えですか?

新しい環境にどんどん入っていく事がなければ、何事も始まらないと思います。そして、新しい事を始める時は、自分たちの周りにいる人たち、友人とかを交えて始めることですね。必ずしも学歴とかそういう部分で優秀な人が必要なわけではないと思います。ジェネンテック創生期の場合でも、いろんな面白い人が当初のメンバーの中にいました。えっ、お前がCEOで大丈夫か?なんてね(笑)。昨今はビザの問題もあって、外国人がアメリカで活動しにくい状況になっているとも聞きます。私の場合は、ジェネンテックがサポートしてくれて、数ヶ月でグリーンカードを取得しましたから。そういうタイミングの問題で、今は難しい面もあるかとは思います。

Q: 最後に、日本の若い人たちにアドバイスをいただけますでしょうか。

一言で言えば、あまりあれこれ考えずにやってみる事じゃないですか。

(聞き手:ラッキーみちる、八木誠吾)