糸井名生氏の柳通り便り「MyVoiceのセールスを始める」

Itoi,LLC 社長
 糸井名生(いとい・なおまる)氏


1月に書いた自閉症の子供用の支援デバイスの開発が進み、デバイスを実際に使用できる段階まできたので、売り込みをはじめました。商品名は MyVoice。パンフレットもあります。



最初のセールス活動は、一緒に働いているスピーチセラピストが紹介してくれた、自閉症の子供のいる親二組に会うことでした。しかし、全く買う気になっても らえず失敗。自閉症の子供には色々なレベルがあり、MyVoiceは初級レベルの子供向けなのですが、彼等の子供は既に、中級レベルに逹していたのが敗因 でした。また、この時は売り値を5万円程度に設定していたのですが、親が簡単に出せる金額ではありません。

親に売り込むのはなかなか難しいのではないか、と思って方向転換し、今度は、自閉症の子供の教育をする私立の学校に片っぱしからメールを送ってみました。 二、三日かけて送ったのですが、一週間ほど、全く返事がありません。親に話しても、学校にメールしても、全く興味を持ってもらえないと思うと、しょせん売 れないのではないか、と落ち込みました。やめてしまおうか、という気持になります。

しかし、これは早とちりでした。私がメールを送ったのは二月の最終週。妻に言われて知ったのですが、この週はほとんどの学校は休み。次の週からちらほら と、興味があるから商品を見せに来てくれ、という連絡が入りだしました。現在のところ、一台買ってくれた学校が一つ。一台買うと言ってくれた障害者の支援 団体が一つ。もう一つの学校は、MyVoiceの中身(画像・音声)を変更するツールを開発してくれれば六台買いたい、と言ってくれました。

興味を持ってくれる人がだんだん出て来て、ビジネスとしてはまずまずの滑り出しなのですが、セールスで人に会うと、私はものすごく疲れてしまいます。人に よるんでしょうが、私の場合は開発に専念できたらそれに越したことはないなあ、と実感しました。ビジネスを起こして最初の数年というのは、自分が何に向い ていて、何が好きなのかを見付ける、自分探しの旅みたいなものだ、という話を聞いたことがありますが、その通りかもしれません。

しかし、楽しい事もあります。ドアが一枚一枚開いていく、という感触です。一人の親が興味を持ってくれれば、その友達を紹介してくれます。子供が通ってい る学校に商品を持って行ってくれることもあります。一つの学校が興味を持ってくれれば、その分校や関係校にも繋がりが出来ます。こうやってじわじわと、自 分の作った製品が広がっていくのを見るのは楽しい。また、エンジニアとして働いていたころは会う機会のなかったタイプの人達に会うのも楽しみです。例えば スピーチセラピストや、障害児の先生で、その道何十年ものベテランとなると、やはりその仕事ぶり、プロ意識、献身的な態度には感銘を受けます。

そして、もう一つ発見があったのは、セールスに行くと、毎回最後に「こういうデバイスを作る努力をしてくれてありがとう」と言われることです。私はこの仕 事を、ボランティアではなくて、ビジネスとしてやっているので、「ありがとう」と言われると少しびっくりするのですが、なるほど、こういう製品を必要とし ている人が、本当にいるんだなあ、苦しくてもがんばらないと、と励みになります。

*誰かセールスとマーケティングを手伝って下さる方がいれば、ご一報下さい。経験が無くても構いません。我々も手探りで進んでいる状況なので、一緒に勉強 しながらやっていきましょう。また、親や先生が使う読者参加型(Web2.0)のウェブサイトも立ち上げたいので、これを手伝ってくれる方も大歓迎で す。*

糸井名生(いとい・なおまる)氏

1973 年生まれ。名古屋大学工学部情報工学科卒。1996年に渡米し、ミシガン大学コンピューターサイエンスの修士・博士課程へと進学。電子認証などのセキュリ ティプログラムに関連する研究でPh.Dを取得。2001年、サンマイクロシステムズへの入社を機にシリコンバレーへ。アクティブカード社などを経て、 2007年4月Itoi,LLCを起業。



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