岡田謙之氏のシリコンバレー起業マニュアル「新会社「Miselu」始動」他

Miselu Inc. Co-Founder&CTO
 岡田謙之(Noriyuki "Ken" Okada)氏


新会社「Miselu」始動(05-01-2008)

Riotttを解散することに決まってから、次の動きをどうするか考えていた。

35歳という区切りの時でもあり、これからの10年間は自分の仕事人生に取って一番大事な時。この10年で何をするかで、自分の人生の意味が大体決まってくるのではないか。

Riottt解散直後は、食いつなぐためにWebデザイン会社で契約社員プログラマーなどもやってみた。思いがけず正社員のオファーももらい、非常にやり がいも感じたのだが、躊躇も感じた。会社経営のところに関わらずにプログラミングに集中できる立場で居続ければ仕事はやりやすそうだけれど、それでは自分 が今までの10年で泥まみれになってやってきた起業経験があまり意味を持たない。逆に、会社経営に関わって行く立場で切り込んでいくとしても、自分が創業 した会社でない会社にどこまで入れ込むべきか。どうせまた泥まみれになっていくのなら、あくまでも起業にこだわったほうがいいのではないか。

そんなことを考えている時に、元IP Infusion社の吉川さんから「カラオケの会社やらない?」と声をかけられた。

これがまた悩みに悩んだ。音楽を事業でやる大変さは、今まで着メロの会社を2回起業してやってきて良く分かっているつもりだ。アーティスト、音楽出版社、 著作権管理会社、レコード会社など数多くのプレイヤーが利権のせめぎ合いをしているエリアであり、皆に利益が回るように仕組みを作るには圧倒的に巨大な規 模の事業かプラットフォームを作るしかない。スモールビジネスでやっていく分にはジャンルをフォーカスして特色を出して行くことで少人数を食わせていくこ とはできるだろうが、ベンチャーキャピタルから資本を入れてベンチャービジネスとして成立させるにはかなりの労力と戦略が必要だ。そういうことから自分の 中では一旦、「音楽は仕事とは切り離して打ち込むべき対象」と納得しかかっていた部分なので、そこをもう一度考え直すべきかを悩んだ。

吉川さんと何度も話して、最終的には「よし、この事業に自分の10年を賭けてみよう」と決心した。

音楽ビジネスが大変なことは変わりない。しかし、自分が今までやってきたことの全てをぶつけるには一番良いエリアであることも間違いない。特にデジタル ミュージック、オンラインミュージックは今一番ホットなエリアで、それでいてまだ真の意味の成功者がほとんどいない未開の地だ。しかもそのエリアに、何か かっちょいい音楽系のクールな製品やサービスを作るのではなくて「カラオケ」と一瞬力の抜ける感じの題材で切り込むのも面白さがある。何よりも吉川さんが 本気で「カラオケで世界を変える」と言う言葉に感化された。よし、カラオケで世界を変えてやろう。

今まで何社も起業してきて成功経験のある吉川さんがCEO、そして自分が音楽ビジネス分野が得意なCTOという組み合わせも理想的だ。吉川さんからも色々勉強したい。というわけで新会社「Miselu Inc.」の誕生だ。

まだ何がどうなるかは分からないけど、また忙しくなりそうだ。

4月に設立手続も完了し、オフィスにも昨日から入った。立地はシリコンバレーで最も飲食店の集結するマウンテンビューのダウンタウンのど真ん中。 Riotttをやっている時にオフィスを間貸ししていた起業家が、資金調達に成功してオフィスをそこに構えていたので逆に彼から小部屋を間貸ししてもらっ た。ダウンタウンを2階から見下ろす窓付きのオフィスで、かなりいい雰囲気。周りはほぼ全てレストランかカフェに囲まれていて、とりあえず食事には困らな そうだ。仕事で気分転換したい時も無料WiFiを提供しているカフェがそこらにあるので困らないだろう。

というわけで、また懲りずに再スタートしますので、応援よろしくお願いします!



オフショア開発の続き(05-14-2008)

本来ならオフショア開発は「製品設計が決まっていてあとは作るだけ」という仕事や「日常的なメインテナンスをローコストで済ませる」という場合に使われることが多いのだろうけど、スタートアップベンチャーにも使えそうだ。

今回Miseluでは、Miseluで今後使いそうな技術的な部分を検証するのにインドやロシアなどのプログラマーを複数雇って、Feasibility StudyやR&Dしたい細かいモジュールを発注している。

従来の方法なら、なけなしのスタートアップ資金をはたいて、さらにストックオプションを絡めて技術面でも各分野の専門家を集めて「用意ドン!」でスタート するところだ。しかしそれだとある程度お金もかかるし、色々な技術分野にまたがった開発をしたい場合に今ひとつ対応/最適化できない。

今時のソフトウェア系スタートアップベンチャーなら、技術面だけでもWebアプリケーション開発(Java, LAMP, RoR, Ajax等), Flash開発(AS, Flex, AIR, FMS等), 携帯電話アプリケーション開発(iPhone, Android, J2ME, BREW, Symbian, Flashlite等), デスクトップ開発(Windows, Mac, Linux等), コンソールゲーム開発(PSx, Wii, DS等)など、検証しておきたい分野は多岐にわたる。これら全てをカバーするようにエキスパートを集めるのはなかなか難しい。

というか、現実的な問題は、そういう各分野に対応できる柔軟なコアチームを作るのにも時間がかかるということだ。雇用が終わるまでR&Dやプロダクト開発ができないのも困るので、hiringを進めながらも進められるところは進めておく必要がある。

というわけで、今回のこの試み。うまくいくかどうか。



社員を雇う順番(05-15-2008)

スタートアップで悩ましいのは社員を雇う順番だ。

会社を設立した直後などはバリバリ手を動かせる人が必要だから、いわゆる大会社のVPみたいな人を連れてきても、何となく手に余るし給料も高いし、結局手を動かせるスタッフが必要になるから人件費がものすごくかさむ。

シニアレベルで経験も程よく積んでいて手も動かせて、大会社的なマネージメント志向でない人が一番いいのだが、そういう人は案外すぐに見つからない。探し てるうちに「経験はもう少し足りないけど元気もいいし人柄もいいし、チームにちょっと欲しい感じがする」という人が先に見つかることのほうが多い。こうい う人ならいきなり6桁の給料を要求してきたりということもないから、採用にあたっての抵抗感も比較的低い。

それで採用するというところまでは良いのだけど、その後の採用のことを考えておいたほうがいいかも知れない。自分が過去に何度か失敗したのは、仕事のバリ バリできるそこそこの経験者を採用した後、チームを拡大する時になって「彼を昇進させて部下を補充するか、彼の上にVPレベルをつけて彼には引き続き現場 で頑張ってもらうか」という場面に遭遇した時だ。

自分は得てして後者を採ってきてしまった。それがほとんど失敗。考えてみれば当然で、バリバリ頑張ってきた当人から見れば、上司を連れてくるということは 基本的に彼の仕事を100%評価しなかったという意味ににも取れる。また、VPなりの上司が後から来たところで、当面の仕事の内容は現場に近い人間のほう が分かるから、「この上司、質問ばかりしてきて全然使えん」とすぐに感じてしまう。しかも上司のほうが給料がいいことは当然感づくから不信感は倍増だ。

将来VPくらいまで任せられるような、信頼できる人を最初から採れるのが一番いいのだが、どうしてもそういう人が最初からいない場合は、後から面倒なこと にならないよう、Xヶ月後のチーム編成はどうなっているべきか、それを見据えて社員にはどういうメッセージを伝えておくかを考えながらスタッフの採用を進 める必要がある。ノリだけで「スタートアップベンチャーで一緒に頑張ろうよ!」と引き込んでしまうと、後から上下のreporting structureを考える時に一苦労することになる(←かなり自戒)。


(岡田謙之氏のブログ「シリコンバレー起業マニュアル」より転載)


岡田謙之(Noriyuki "Ken" Okada)氏

1972 年米国ニューヨーク州生まれ。幼年期をブラジル、少年期を横浜で過ごす。東京大学法学部を卒業後、ソフトウェア開発会社、アコースティック社を横浜に設 立。同社で自動編曲技術を使った着信メロディサービスを開始。2002年に米国シリコンバレーにインプロビスタ・インタラクティブ・ミュージック社を設立 し、米国AT&Tワイヤレスの公式サービスで着信メロディサービス「Mobjam」を開始。2006年に着信メロディ事業から撤退後、会社名をラ イオット社(Riottt, Inc.)に変更しSNSサービス「RIOTTT」を開始して再挑戦するが、軌道に乗せきれず解散。2008年4月からMiselu Inc.立ち上げに参画している。



記事についてのお問い合わせは、info@svjen.org まで。