糸井名生氏の柳通り便り「起業を間近にみて」

Itoi,LLC 社長
 糸井名生(いとい・なおまる)氏


***今回は妻が書いてくれました***

「4月の中旬で会社を辞めて起業する」という夫の決意を聞いたとき、「そうか、あな たは本気だったのね」というのが一番最初に頭に浮かんだことでした。なぜそう思ったのか。土地柄からか、「起業したい、起業する」と夢を語る人には多く出 会いますが、実際にそれを行動に起こす人というのは、思ったより少ないと思っているからかもしれません。安定した収入を捨て、一家の大黒柱というプレッ シャーを背負いながらの夫の決断は尊敬すべきものであり、できる限りサポートしていきたいというのが、現在の心境です。


自分で事業を起こすこととは、自分にとっての一生の仕事または天職につながっていくのではないか、夫の起業を間近にしてそう思うようになりました。当初考 えていたビジネスアイデアが、様々な人との出会い、次々とぶつかる壁、想像していた世界と実世界の差を毎日目の当たりにするにつれて、変化していくのを見 ると、益々そう思います。

夫の起業への思いは出会った当初から知っていました。私は某IT系の会社でリリースマネージャーとして、エンジニア達がものを作り出すプロセスの管理をし ています。若い時から、自分の興味ある分野を見つけ、その分野での高度な知識と技術を見に付け、自分の特性を生かし、物を作り出していくエンジニア達。私 のようにプロセスを管理する立場の者から見ると、とても生産的で会社への貢献度が高い存在に見えます。その分仕事での達成感も高いのでは、と勝手に思い込 んでいました。人それぞれ、感じ方は違うようです。

会社勤めなら、一定の時間を会社の仕事に注ぎ込みさえすれば、決められたお給料が間違いなく振り込まれます。医療保険や401K、生命保険にだって加入で きてしまう。有給休暇だって頂けるし。オフィスはインフラが整い、夏は涼しく冬は暖か、お茶やコーヒーも飲み放題。仕事に息詰まったら同僚と社交して気分 転換もできるし。職場を離れるとパッと気分を切り替えて母、妻としての自分に戻れる。こんな素敵な世界ってないんじゃないの。こんな素敵な世界を飛び出し て、一人で起業するだなんて。

結局のところ、こういう思考プロセスを所持する私のような人間は、自分にとって一生の仕事となる分野を、いつも探し続けていく「迷える子羊」のまま、企業 で働いて行くのでしょう。夫のように勇気ある決断をする人間は、一生の仕事を見つけるプロセスを確実に歩み、見つけ出すことができるのだと思います。夫の 起業を「勇気ある決断です」と気取った感想を述べつつ、密かに「でも正直言って会社勤めの方が100倍楽じゃないですか?」とも思ってしまう起業家の妻で ございます。

(糸井名生氏のブログ「柳通り便り(http://blog.goo.ne.jp/naomaru1)」より転載)


糸井名生(いとい・なおまる)氏


1973年生まれ。名古屋大学工学部情報工学科卒。1996年に渡米し、ミシガン大学コンピューターサイエンスの修士・博士課程 へと進学。電子認証などのセキュリティプログラムに関連する研究でPh.Dを取得。2001年、サンマイクロシステムズへの入社を機にシリコンバレーへ。 アクティブカード社などを経て、2007年4月Itoi,LLCを起業。



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