この広大なアメリカ大陸に

Itoi,LLC 社長
 糸井名生(いとい・なおまる)氏

 

石川好という作家の、「ストロベリー・ロード」という本があって、私が好きな本の一冊ですが、それをまた読み返しました。アメリカで生きる日本人の気持を率直に書いてあり、また彼の回りにいる人々の描写が鋭くて、とても面白い。

1960年代。18歳の石川少年は、11歳年上で、アメリカで農業を営む兄から、「出て来い、この広大なアメリカ大陸に出て来い」という手紙をもらい、この殺し文句に説得されて渡米。英語が話せないのと、社会、文化の違いに苦しみながら成長していく、という話です。

石川少年と同じように、私がなぜアメリカに来て、アメリカで働き生活しているかを考えると、この殺し文句一言に尽きます。アメリカに来て働く人は、みんなそうなんじゃないでしょうか。広大な土地、可能性、それを追い求めるガツガツした人々、彼等を励まし育む文化。1960年代の農業でも、2000年代の ITスタートアップでも、こういうものを追い求めて人々はアメリカにやってきます。これが、いわゆるアメリカンドリーム。

日本を離れて住んでみれば、日本のいいところに気付くようになります。家族はいるし、安全だし、魚はおいしいし、社会が環境問題に真面目に取り組んでいるし、人種差別されないし、技術的に面白い仕事もあるし。

それでも日本に帰ろうと思わないのは、私もアメリカンドリームに魅せられてるから。そして、自分の子供にも、アメリカンドリームを持って生きて行って欲しいから。

もう一つ面白かった点は、60年代の農業と、現在のスタートアップに、意外なほど共通点が多い、ということ。

・外国から移民がたくさんやって来て、一生懸命働く。
・海のものとも、山のものとも分からない移民を使わないといけないから、使う側は、大きな仕事をいきなり与えて、どれだけ頑張れるかで、その人の評価をする。これが一番手っとり早く、人の能力を見分ける方法だから。
・この試験にパスできれば、それ以前のこと、例えば祖国で何していたか、学歴、などは問題にならない。
・来たての移民は、必ず搾取される(低賃金で労働)。そこから抜け出すために皆努力する。

全く違う職種なのに、人を使い使われる基本的なアルゴリズムは変わっていません。

何十年も、農地で日本人、日系人が流して来た血と汗のおかげで、日本人、日系人もだんだんアメリカ社会で受け入れられるようになり、私自身もこうやって広大なアメリカの一角で仕事をすることができるわけです。

この有り難さを噛み締めて、自分の力に変え、多少の困難にはへこたれずに、日々前進していかないといけません。

 

(糸井名生氏のブログ「柳通り便り(http://blog.goo.ne.jp/naomaru1)」より転載)

糸井名生(いとい・なおまる)氏

1973 年生まれ。名古屋大学工学部情報工学科卒。1996年に渡米し、ミシガン大学コンピューターサイエンスの修士・博士課程へと進学。電子認証などのセキュリ ティプログラムに関連する研究でPh.Dを取得。2001年、サンマイクロシステムズへの入社を機にシリコンバレーへ。アクティブカード社などを経て、 2007年4月Itoi,LLCを起業。
現在は、NextLabs, Inc.というスタートアップでエンジニアとしても活躍中。


記事についてのお問い合わせは、info@svjen.org まで。