スタートアップの成長曲線

Itoi,LLC 社長
 糸井名生(いとい・なおまる)氏

スタートアップの成長曲線は、子供と同じである、という話を聞きました。これはなかなか上手い比喩です。

子供は、毎月、同じ勢いで体重や身長が増えていく、ということはありません。良く食べて良く寝て、急速に成長する時期と、食欲も睡眠もそこそこで、それほど成長しない時期、というのを繰り返しながら大人になっていきます。

スタートアップも、毎四半期、少しずつお客が増えて行き、仕事の量も増えていく、という、スムースな直線的成長、という会社はあまりありません。ある時は、何ヶ月も、すごい勢いでお客が増え、お客がお客を呼び、仕事の量が急激に増え、社員は皆忙殺される。またある時は、何ヶ月も、新しいお客が現れず、懸命に物を作っても契約してもらえない。こういうサイクルを繰り返して、大きくなります。

社員にとっては、成長期も停滞期も、どちらも試練です。

成長期には、とにかく忙しい。働いても働いても、新しい仕事が入って来るので、終わりがありません。忙しさに耐えられず、辞める人が出たりすると、残った者にはさらにプレッシャーがかかります。また、私生活の忙しい時期と重なる、というのも悪夢です。私の娘が産まれた時が、ちょうどこういう時期で、目が回るような忙しさでした。今となっては良い想い出ですが。

停滞期には、チーム全体の士気が下がり、人心が荒みます。非難合戦が始まり、喧嘩に発展します。つらくなって辞める人が出ます。

大切なことは、このサイクルを認識することです。多忙も不況も、必ず終わりが来ます。辞めてしまうと、今まで積み重ねたことが無駄になりますから、サイクルから来るつらさを理由に辞めるべきではありません。

サイクルが認識したら、そのときにあった仕事ができます。忙しいときには、会社の成長を楽しんで、いつもより多く仕事をする。私生活では旅行などの大きなイベントは控えて、できるだけ休息しましょう。不況期には、普段はできないような仕事 - 勉強したり、ソフトウェアの内部構造を改良したり、仕事のプロセスを改善したりします。人心が荒むのを抑えるために、幸せそうな顔をして、機嫌の悪い同僚がいても、知らない顔をしていましょう。有給休暇を取るチャンスでもあります。

チンギス・ハーンのモンゴル帝国で重用されたのは、帝国初期に戦争に負けたとき、バルジュナ湖に落ち延びるハーンに最後まで付き添った数人の騎兵でした。富めるときも貧しきときも、一緒に乗り越えてこそ起業です。

(糸井名生氏のブログ「柳通り便り(http://blog.goo.ne.jp/naomaru1)」より転載)
糸井名生(いとい・なおまる)氏

1973 年生まれ。名古屋大学工学部情報工学科卒。1996年に渡米し、ミシガン大学コンピューターサイエンスの修士・博士課程へと進学。電子認証などのセキュリ ティプログラムに関連する研究でPh.Dを取得。2001年、サンマイクロシステムズへの入社を機にシリコンバレーへ。アクティブカード社などを経て、 2007年4月Itoi,LLCを起業。
現在は、NextLabs, Inc.というスタートアップでエンジニアとしても活躍中。


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