「自分のしたい事・自分にできる事」

Itoi,LLC 社長
 糸井名生(いとい・なおまる)氏

仕事は、自分のしたい事を選ぶ、という考え方が一般的になってから、暫く経ちます。日本でもアメリカでも、ここ20年くらいの考え方でしょうか。「で、どんな仕事したいの?」「いや、まだ良く分かりません」という会話に、皆さんも訊く方ないし答える方の立場で、参加したことがあるでしょう。

ところが、この「自分のしたい仕事」というが厄介です。なぜかというと、完全に楽しい仕事というものは無いから。仕事をしている時間のうち、100%の時間を楽しく過ごせる仕事、というものは、存在しないか、やっても仕方のない仕事だと思います。

仕事をしているときの気分を、4つに区切ってみましょう。

1. こんなこと嫌だ。辞めてやる。
2. つらいけど、なんとか耐えていこう。
3. 快適に、充実感をもってやってる。
4. すごく楽しい。この仕事すごく好き。

3と4の割合が多い仕事、というのが、いい仕事です。そういう仕事に着いていたとしても、1と2が無いということはないと思います。

「自分のしたい仕事」を追い求めていく危険は、4が100%でなければ、これはいい仕事ではない、という錯覚に陥るからです。そうすると仕事に不満が募り、不幸になります。あるいは、仕事に着くのが面倒になったり、怖くなります。

3と4を増やすには、「自分のしたい事」よりも、「自分にできる事」を求めてみてはどうでしょう。
仕事の喜びは、内容が楽しいというよりも、何かを成し遂げたときの達成感、充実感にあるようです。

私は、二十歳くらいのときに、名古屋大学の北部生協食堂で、定食を食べた後、散歩していて、突然悟ったことがありました。自分には、するのが好きなことはたくさんある。音楽、スポーツ、文学。けれども、人並み以上に、今からなれそうなものは、一つしなくて、それはソフトウェアを書くこと。

その瞬間から、選ぶ必要がなくなったので、進路で悩まなくなりました。分野の中では、学者になりたいのか、社長になりたいのか、エンジニアになりたいのか、と言った迷いはありますが、小さな悩みです。

一日、本当に頭がちゃんと働くのはまあ6時間。人生のうちで、若者の特権である情熱と、向こう見ずな勢い、頭の柔軟性、年齢からくる経験と、時間をかけて勝ち取らなければいけない周囲からの信頼。この全てがそろう時間というのは、まあ10年から20年。

一度しかない人生で、何かを成し遂げようと思ったら、あっちこっちに手を出したり、好きだの嫌いだの言ってる暇はありません。自分にできることを見つけたら、直進あるのみです。

 

(糸井名生氏のブログ「柳通り便り(http://blog.goo.ne.jp/naomaru1)」より転載)

糸井名生(いとい・なおまる)氏

1973 年生まれ。名古屋大学工学部情報工学科卒。1996年に渡米し、ミシガン大学コンピューターサイエンスの修士・博士課程へと進学。電子認証などのセキュリ ティプログラムに関連する研究でPh.Dを取得。2001年、サンマイクロシステムズへの入社を機にシリコンバレーへ。アクティブカード社などを経て、 2007年4月Itoi,LLCを起業。
現在は、NextLabs, Inc.というスタートアップでエンジニアとしても活躍中。


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