第2回 ビジネスにおいてなぜ特許取得が重要なのか?

John Inge Partner

ビジネスにおいてなぜ特許取得が重要なのか?

このような質問が、ベンチャー企業や、新発明をした方々、多くの中小企業関係者、起業家などからよく寄せられます。私の知る限りでは、この疑問に対する答 えがもっとも簡潔に提示されているのは、米国憲法の第1条第8節です。そこには「連邦議会は、科学および有用なる技芸(現代のことばでいえば技術)の進歩 の促進を図るために、著作者および発明者に対してその著作物や発見につき一定の期間、排他的権利を保障する….権限を有するものとする」と記されていま す。

特許とは政府と発明者の「取引」である

すなわち、研究・開発の成果を最終的には公共の用に役立てるために、著作者や発明者には、その「著作物」や「発見」(つまり発明)につき、それらを公開す ることの見返りとして、一定の期間排他的な権利が認められるのです。このような目的を達成するための手段が、著作物にあっては著作権、そして発明の場合に は特許権なのです。著作権については後出のコラムで述べるとして、ここでは特許だけを取り上げます。

特許とは、ある意味では政府と発明者間の契約です。他の契約と同じように、当事者双方はそれぞれ、何かを放棄する一方で何かを獲得します。発明者に関して いえば、発明について公共(政府)に対する開示を行って、その関連の技術につき通常の技量を有する者であれば、誰でもその発明を製作し、使用することがで きる程度まで詳細を明らかにする代わりに、他者がその発明の製作、使用、販売、または輸入することを排除するために司法の力を借りることのできる権利を政 府から取得します。発明者に与えられるこの権利の時間的な長さ(つまり憲法にいうところの「一定の期間」)は連邦議会が特許法として定めており、一般的に は特許出願の日から20年間となっています。

特許は他者を排除する権利をもたらす

特許権者の権利は、他者を排除するものであるという点を理解しておくことが大事です。つまり他者がその発明につき製作、使用、販売、または輸入を行うこと を禁止する権利です。一般に思われているように、特許権者が特許権によって発明についてその製作、使用、販売、輸入、あるいはその他の実施を行うなどの権 利を得るのではありません。どのような技術の実践や、いかなる科学上の発見の使用も、他者がそれらについて特許をもっていない限りは、誰でも自由に行うこ とができ、特別の権利は必要とされません。これもまた誤解のある向きがありますが、特許は、何かの発明をもたらした発明者の功績を称えて、褒章として政府 から授与されるというものではありません。

憲法や特許法は発明者に排他的な権利を与えていますが、この権利は自由に譲渡することができます。すなわち特許は法的財産であって、自動車や住宅や書籍と 同じように自由に売却できます。発明者が自己の得た特許権を、その発明の元となった研究資金を提供した出資者に、売却ないしは譲渡することはかなりしばし ばあります。他の財産と同様に、この財産に対する権利は分割したり、持分として売却したりすることができるので、発明者は特許権の一部しか所有していない こともあります。これはベンチャー企業ではよく見られるケースです。このような場合、発明者は実際には一種の出資者ということになります。発明者はその知 的技能を提供して開発を行い、一方他の出資者たちは必要な資金提供を行うことで、プロジェクトに貢献します。

経済上のツールとしての特許の価値

以上の説明から、特許というのは本質的には経済上のツールであり、また出資者たちが掌握しているものだということがお分かりになったと思います。つまり、 特許の対象物として、内容開示と権利請求とがなされた発明を生み出す元となった研究に対して、出資者たちが提供した資金を保護するツールなのです。特許が なければ、誰でも、出資者や発明者に対して何らの代償の支払いもしないまま、リバース・エンジニアリングや、発明の模倣をまったく合法的に行うことができ ることになります。特許化されていない発明の模倣者は、発明の元となった研究に対して、資金面あるいは知的技能面での貢献をしないで、発明の利益を享受す ることが可能になってしまいます。

このように、ベンチャー企業にとっては、特許の保護を受けることが成功の絶対的なカギとなることが非常に多く見られ、特許による保護がない場合には、研究 を支えた多額の資金(通常何百万ドルにも上る)や、会社にとっての製品第1号の基礎となった発明が生まれるまでに費やされた何年間もの歳月に渡る努力も、 資金量がもっと潤沢で、製品の製造・マーケティング体制に優れた他社が、刑罰を受けるおそれもないまま当該発明の模倣をしてしまえば、無に帰することにな ります。どんな素晴らしい発明を行っても、特許を取得していなければ、法律上は保護されません。

特許権の執行

特許権者の排他的権利は、連邦地裁に特許侵害訴訟を提起することによって執行が可能です。これによって発明者側勝訴の場合には、裁判所は侵害者に対して、 侵害行為を停止するよう命令でき、さらに侵害による損害につき賠償金を特許権者対し支払うよう命令ができることになります。また侵害者が、特許の存在を認 識しおり、自社製品の特許侵害を疑って然るべき状況にあり、さらに侵害行為につき抗弁事由を持たないことが立証された場合には、裁判所は実損害の3倍の賠 償を命じることができます。こうして認められる損害賠償の金額は判例毎にさまざまですが、何千万ドルという損害賠償も珍しいことではありません。米国への 輸入品で特許を侵害しているものについては、米国国際貿易委員会(ITC)を通じて特許権の執行がなされます。このような輸入品の場合における
救済方法としては、侵害者に対しての侵害行為の差し止めや金銭賠償の命令はありませんが、代わりに米国関税庁に対する排除命令という形で侵害品の輸入を食い止めます。

特許の売却、ライセンス契約による利益の実現

発明者に発明を実際に具体化する意図や、資金的裏付け、製造の可能性などがないまま、発明がなされる場合もあります。そのような場合であっても特許には大 きな価値があります。その製品を製造・販売したいと考えている他の会社に、特許を売却ないしライセンス契約をすることによって、発明者あるいは出資者に とって貴重な収入源とすることができるからです。

特許の防衛的利用法

特許のもう一つの有効な利用は防衛面です。とりわけ競合会社がひしめき競争の激しい市場においては、会社としては、他社を市場から追放したり、ライセンス 契約収入に重きをおくのではなく、自社製品の販売を続ける権利を守ることを最優先とする場合があるでしょう。このような会社では、自社の製品の周りを一連 の関連特許で固め、その特許を用いて攻撃を最初に仕掛けてくる競合会社への対抗目的にのみに用います。このような状況では、金銭のやりとりは行わないか、 あるいはライセンス料を大幅に減額した形での、クロスライセンシング契約の締結という決着がしばしば行なわれます。

また特許による防衛を行わず、トレード・シークレット(企業秘密)として発明を保護することも考えられます。この方法は、発明を解析するための製品のリ バース・エンジニアリングが行われるおそれのない場合には有効な選択肢です。しかしトレード・シークレットによる保護は、後から他社が自力で同じ発明をし てしまった場合にはその瞬間に効力を失います。特許化されていればこのようなことにはなりません。

投資は特許によって守るべき

このように、特許は研究・開発への投資(金銭、知的技能)の保護の上で最も重要であり、また特許による保護が得られなければ、多くの研究も行われることはないであろうということがお分かりいただけると思います。

次号は「特許の経済的価値について」です。コラム・弊所に関するご質問・お問い合わせは弊所カリフォルニアオフィスまでご連絡下さい。

John Inge
Partner


ジョン・R・インジ弁護士(John R. Inge)

シュグルーマイオン法律事務所(知的財産法専門法律事務所)所属、シニアパートナー。専門は、電気/機械工学、インターネット・ソフトウェアの分野の特許 出願・手続き、鑑定、ライセンス契約、特許有効性判断、訴訟及び、知財戦略アドバイス。電気工学と特許法を合わせた業務経験は30年以上に渡り、今現在は シリコンバレーオフィスと東京オフィスで特許法弁護士として活動している。1968年Carnegie-Mellon大学を卒業、Suffolk Law Schoolを1974年に卒業後、15年間日本に在住した。英語、日本語及びフランス語のマルチリンガル。






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