第3回 知的財産の経済価値

John Inge Partner

この10年間、 米国連邦裁判所に提訴される特許侵害の申し立て数と裁判所が認める損害賠償額とは、いずれも増える傾向にあります。(法律における「損害賠償」には、民事 訴訟で裁判所が責任の所在を認めた結果、付与される金額という特別な意味があります。)かつては、損害賠償1件について数100万ドルでも稀でしたが、今 日では数億という損害賠償額も決して異常ではなくなってきています。

例えば、2002年だけを見ても、アイジェン・インターナショナル社 対 ロシュ・ダイアグノスティックス社訴訟では5億500万ドル、ホープ市国立医療センター 対 ジェネンティック社では5億ドルの損害賠償額の他、1億ドルの判決が出た訴訟もいくつかあります。昨年もロサンゼルスで、医療機器特許の件でタイコ・イン ターナショナル社を相手取って訴訟を起こしていた小企業マシモ社に対して1億3,500万ドルの損害賠償額が裁定されました。Blackberry をめぐるNTP 対 RIM 訴訟の5,470万ドル、コダック 対 サンの起訴当初10億ドル、現在は9,200万ドルのやはり相当額の和解なども報告されています。


何が高い賠償金額を決めるのでしょうか?

こういった高い賠償金額のニュースを目にするたび、皆さんも、裁判所は何を根拠に特許損害賠償額を決めるのだろうと思われるかもしれません。

ここで基本に戻ると、特許侵害とは弁護士が「不法行為(tort)」または「民事上の権利侵害(civil wrong)」と呼ぶ主題に当てはまります。不法行為の最も一般的な例は、無謀な運転が引き起こした交通事故の傷害のような過失行為ですが、実際はこのカ テゴリはもっと広いものです。賠償額の背景には「make the plaintiff whole」、つまり、被告の不法行為がなければ、不法行為をされた側が、現在いたであろう位置に被害者を回復させる、という考え方があります。場合に よっては、類似の不法行為が将来的に起こることを強く防ぐために、不法行為者を罰する目的で裁判所がさらに「懲罰的損害賠償(punitive damage)」を裁定することもあります。

特許訴訟の場合、「making the plaintiff whole」は、特許被告による侵害で特許所有者が被った損害を回復するという意味があります。特許侵害訴訟における損害賠償額の裁定についての裁判所の 権限は、特許制定法第284条(35 U.S.C. § 284)に規定されています。

裁判所は、侵害者が発明に対して支払うべき適切なロイヤルティを最低額とし、侵害行為を賠償する適切な損害賠償額を原告に付与することとする。

その他にも、損害額や妥当なロイヤルティの算定をする上で、専門家証言を採用できる旨も規定されています。また、故意の侵害の場合、懲罰的損害賠償のひとつの種類として、裁判所が実際の損害額の3倍を裁定することも認められています。


特許損害賠償額算定の3つの方法

1.妥当なロイヤルティ(Reasonable Royalty)

最初の方法である「妥当なロイヤルティ」とは、弁護側の侵害行為を賠償するために裁判所が特許所有者に与えることのできる、法律で定められた最低額を意味 します。妥当なロイヤルティの額は、侵害が始まった日に特許所有者と侵害者の間で話し合いが行われていれば、どのような額になったかという仮定に基づいて 決められます。これは俗に「売買当事者間の合意(willing buyer – willing seller)」ルールと呼ばれます。これをべースに妥当なロイヤルティ額を決める上で、裁判所は、いくつかの要素に立った証拠も考慮しますが、実際の訴 訟では、妥当なロイヤルティ額の算出は極めて複雑な法手続きとなります。ほとんどの場合、経済専門家が両当事者の証言として呼ばれ、経済、市場問題の幅広 い証拠文書が提示されます。

裁判所が考慮の対象とするものとして、次のような要素があります。
(1) 同類の特許に支払われている料金
(2) 訴訟対象となっている特許に対し当事者がすでに払ったロイヤルティ料金
(3) ライセンス内容と範囲(排他的か非排他的か、契約地域について独占的か非独占的か、など)
(4) 特許利用による独占的立場を維持するため、または、特殊な状況下でのみ特許をライセンスするために、特許所有者が以前に確立した方針およびマーケティング・プログラム
(5) 特許所有者とライセンシーとの間の商売上の関係(同じ販売区域で競合関係にあるか、事業形態が同じか、など)
(6) 特許製品の販売がその他製品の売上促進に与える効果
(7) 特許期限とライセンス期限
(8) 特許製品の利益性や商業的成功と人気
(9) 非侵害製品、または、以前の製品と、特許製品とを比べた場合の有用性と利点
(10) 特許製品の性質と購入者への利益
(11) 侵害者による特許発明の利用程度
(12) 類似事業において発明の利用に割り当てられる利益、または、販売価格の部分
(13) 特許でない部分や事業リスク、広告と切り離した、発明のみに起因する利益部分
(14) 専門家として認められた証言者の見解
(15) 類似製品を製造する上で、ライセンスに対して分別あるライセンシーなら支払ったであろう金額。

2.確立したロイヤルティ(Established Royalty)

裁判所が損害額を決める上で使う2つめの方法が「確立したロイヤルティ」セオリーです。「確立したロイヤルティ」は、同製品、または、類似製品について他 社にライセンスされており、自由な交渉の上で特許所有者が確立したロイヤルティ料を見て決定されます。ただし、特許所有者の以前のライセンス料金は、最低 金額としてのみ使われ、特許所有者は、現在の特許の価値が、以前付与されたライセンスの日より増したことによる、高いライセンス料の請求もできます。

3.損失利益(Lost Profit)

3つめは、認められれば、最も高い賠償額が獲得可能な「損失利益」という方法です。この場合、特許所有者には、侵害がなければもたらされたであろう金額と等しい損害賠償額が裁定されます。

しかし、損失利益に基づく賠償額は、いつも認められるわけではありません。損失利益を認められるためには、訴訟対象の特許が含まれる製品がすでに販売されていることが条件であり、なおかつ、売上や利益損失が、被告の侵害行為によるものであることを証明する必要があります。

通常、損失利益は、被告の侵害行為がなければ特許所有者が享受したであろう売上に基づいて計算されます。しかし、利益損失は、売上の直接損害の他、侵害が もたらした価格低下にも及びます。価格低下は、特許所有者が、被告との競争により販売価格の値下げを余儀なくされた場合、または、侵害行為により本来なら できた値上げをできなかった場合に起こります。価格低下の最もわかりやすい例は、特許製品の競合社が特許所有者と侵害者の二社のみの場合ですが、この考え 方は同じ市場に複数の競合社が存在する場合も当てはまります。競合はしていても侵害はしていない製品が市場にある場合、損失利益の計算は、より複雑になり ます。

損害賠償額が増す、故意侵害

侵害が「故意」と判明した場合、裁判所は、上記の3つの方法で決められた賠償額に最高3倍までの金額を裁定することもできます。故意侵害は、被告が特許の 存在と侵害の可能性を認識しており、なおかつ、特許の無効性など、侵害を有効に弁護する理由がないままに、侵害行為を続けた場合に起こります。実際に、高 額な損害賠償額の判決の多くは、この故意侵害が認められた結果です。


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John Inge
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ジョン・R・インジ弁護士(John R. Inge)

シュグルーマイアン法律事務所(知的財産法専門法律事務所)所属、シニアパートナー。専門は、電気/機械工学、インターネット・ソフトウェアの分野の特許 出願・手続き、鑑定、ライセンス契約、特許有効性判断、訴訟及び、知財戦略アドバイス。電気工学と特許法を合わせた業務経験は30年以上に渡り、今現在は シリコンバレーオフィスと東京オフィスで特許法弁護士として活動している。1968年Carnegie-Mellon大学を卒業、Suffolk Law Schoolを1974年に卒業後、15年間日本に在住した。英語、日本語及びフランス語のマルチリンガル。






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