第4回 国際的特許保護戦略

アラン・J・キャスパー

1.はじめに

国際特許保護を広義に捕らえると、複数の国において発明特許権の取得と行使の両方を意味します。米国国内の企業資金による発明を保護するために、日本企業 の米国支社がとるべき戦略には2つの重要なポイントがあります。1つ目は、米国での発明に対して特許保護を日本においても「国内特許権」取得すべきか、2 つ目は、他国においても「国際特許権」取得を行うべきかという点です。

国際特許申請または行使の際に考慮すべき鍵となる4つの要素

国際特許権の取得あるいは行使を行うかを判断するには、確実な情報を基に以下の事項を慎重に検討する必要があります。


1-1.コスト

特許権の取得と保護には多大な費用(手続き費用、出願料)がかかる恐れがあります。米国の場合、特許取得に要する費用は、平均15,000?25,000 ドルと報告されています。国際特許保護の取得は、優先権の主張が出来、元となる米国特許申請の明細書及びクレームを使用したとしても、各国毎にかかる費用 は、出願料・翻訳費用などにより米国のものと同じような額がかかります。

1-2.スピードと効率

特許の取得及び最終的に行使を行うかどうかの判断は、特許権を付与されるまでの発行当局のスピードや効率によって影響されると考えられます。異議申立て手続き、特許請求の範囲審理、無効審理ができる国では、それが特許権取得遅延に影響を及ぼす手段となり得ます。

1-3.ビジネス価値

国際的に特許取得と行使を行うかを最初に判断する上で最も大切と言えるのは、特に製品マーケティング・セールスまたはサービス、あるいは海外管轄における ライセンシング契約から見込まれる収益の見通しなどの、特許権と企業が展開するビジネスとの関連性です。特定の産業や事業戦略により考慮すべき点は様々で すが、以下はその代表例です。

・市場シェア及び利益の保護―特定の製品意匠や市場シェア、積極的な競合社としての評判の確保。
・ライセンシング―補助収入源の基盤と、特許権使用に費やす他社へのキャッシュフローを最小限に抑える権利交換のために知的財産を提供する事。
・資産の取得―吸収合併及び外国企業との合弁事業の為の地域・全国的市場における企業価値の提供。
・防衛―先行技術を生み出すことにより、競合他社による主要な基本・発展技術の特許化を防止。

1-4.法的価値

言うまでもなく、保護する発明が会社事業にとって極めて重要であっても、その基となる権利が無効であれば、特許は有効な事業戦略とはならない場合がありま す。そのため、取得できる排他的権利の範囲と、これらの権利を特定の国でどれだけ効果的に行使できるか(損害賠償と差止め)といった点を考慮に入れる必要 があります。


2.外国特許出願

出願人がひとつの申請書を出願し、1回の調査と審理で、1つの特許が世界中で行使できる、というのが理想です。しかし、世界で通用する1つの特許というの は、今のところありません。従って、出願人が特許保護を複数の国で行う場合は、3つの基本的な方法があります。これらの方法にはそれぞれ、外国出願を行う 上で考慮すべきメリットとデメリットがあります。


A.非条約出願

「非条約出願」とは、先に出願した米国出願日の優先権主張をしない出願のことで、米国を第一国としない出願か、あるいは、優先権を主張できる期間が過ぎてから出願することです。

他国における直接出願には、(1) 国家法、地域法への準拠、(2) 地域弁護士の採用、(3) 多くの産業国においては各国言語への翻訳、が必要となります。出願を希望する国の数が多ければ、コスト、手続き、管理に関して問題が生じる可能性がありま すが、迅速な特許保護には有効な戦略です。

B.パリ条約出願

工業所有権の保護に関するパリ条約は、「優先権」を供与します。優先権により、(1)ある国を第一国(例:米国)とする出願をし、(2) 最初の出願日から12ヶ月以内に別の国(例:中国)での出願をした場合、(3) 共通の特許要件であれば、最初の出願日を後に続く出願の優先日として主張することが認められます。

「優先権」のメリットは、最初の出願日以後に、公開または開発された先行技術を排除することができる点です。しかし、個々の国の国内法に関連する費用や負 担は、上記の非条約出願と同様にかかります。また、パリ条約に加盟しない国もありますが、非加盟国(台湾など)の中には、2国間条約によって類似のメリッ トとデメリットを提供しているところもあります。

C.PCT出願

特許協力条約により、加盟国の在住者か、国民である「出願人」を対象に、出願、調査、審査、公開の制度が確立されました。PCT国際出願により、優先権を 始めとする、手続き上コスト上の重要なメリットが得られます。適切な受理官庁に対してPCT出願をすれば、それは、PCT加盟国のすべての国または地域特 許庁への特許出願として処理されます。

出願人にとっての主な2つの利点は、(1) 意思決定をするための情報が増える、(2) 可能か限り遅らせて意思決定をするための時間を延ばすことができる、といった点です。出願後、PCT手続きを管理する3つの段階があります。

チャプターI手続き
―この最初の段階では、最初の出願日から30/31ヶ月まで延長できますが、出願人が選択する特許庁で16ヶ月以内に特許性の調査及び審査が行われます。 また、最初の出願日から18ヶ月後に、スイス、ジュネーブにあるWIPO(世界知的所有権機関)の国際事務局(IB)で出願が公開されます。

調査
―最初の出願日から18ヶ月以内に、国際調査機関(ISA)により、先行技術の調査が行われ、新規性、進歩性、実用性の国際基準から、請求内容が審査され ます。出願人に国際調査見解書(ISO)が送付され、出願人に対し、ISOの郵送日から2ヶ月以内に、出願の補正や発明要件の単一性、その他方式への準拠 を行う機会が与えられます。先行技術は、対象クレームごとにまとめられ、特に関連のある文献であって当該文献のみで発明の新規性または進歩性がないと考え られるもの(新規性の欠如を示す カテゴリ「X」)、特に関連のある文献であって当該文献と他の1以上の文献との組み合わせにより進歩性がないと考えられるもの(自明であることを示す カテゴリ「Y」)、一般的技術水準を示すもの( カテゴリ「A」)と列挙されます。出願はまた、発明の単一性(一つの出願につき一つの発明)基準からも審査されます。

審査
―2004年1月1日に発効のPCT手続きの改正により、チャプターIにおいて、また、特許付与段階、または、PCTの「国内段階」に入る必要の前に、拡 張された国際調査及び予備審査(EISPE) が行われます。EISPE 手続きでは、ISA による初期調査報告書 (ISR) の後、審査基準に基づく、特許性に関する国際予備報告書(IPRP)が出されます。出願人が、30/31ヶ月のチャプターIの全期間を使いたい場合は、国 内段階に入る前に、条例19条に基づくクレーム補正とともに、非公式の見解を提出することができます。IPRP、非公式見解、補正は、国内段階の下で特許 付与に選ばれた国に送られます。

補正
―出願人は、ISRおよびIPRPで、国際審査官が見つけた最も適切な先行技術を精査し、明細書、特にクレームを補正するかを決めることができます。この 審査では、国際審査官の、原クレームの特許性に関する拘束力のない意見が得られるため、出願人には、クレームを補正するか、各国または地域特許庁での国内 段階の出願に進むかを決めることができます。


チャプターII 手続き

―最初の出願日から22ヶ月後、または、ISOが発行されてから3ヶ月後のいずれか遅い方に始まるチャプターII手続きでは、手数料を支払って要求すれ ば、原クレーム、補正したクレームに対する特許性の審査、および、新規性、進歩性(自明性)、産業上の利用性(実用性)の報告書が出されます。明細書やク レーム内容を補正する機会もあります。この手続きは(1) 多額のコストを要する、(2) これを経なくても30/31ヶ月間の時間の猶予が得られる、(3) 特許性に関する最も貴重な情報は、チャプターI段階で得られる、などの理由により、あまり利用されません。

国内段階への移行 ― PCT出願人は、異なる2つの方法のいずれかの方法で、特許付与を得るために、最終的に国内段階に移行する必要があります。第一の方法として、国内段階へ は、30/31ヶ月の期限が切れる段階で移行するということです。第二の方法として、国内段階は、出願人の希望で早い時期に移行することもできます。いず れにしても、国内段階には、(1) 要求をする、(2) 出願書をその国で認められている言語に翻訳する、(3) 国内段階手数料を支払う、(4) その他各国の必要条件に準拠することにより入ることができます。

適切な時期に正しく国内段階に入らなければ、国際出願は放棄され、国内法に基づく復活の可能性にかけられます。そして調査と審査(適宜)と国内段階が無事終了すれば、特許が付与され、国内法に基づき権利行使が可能になります。


PCT出願のメリットとデメリット

PCT出願の明らかなメリットをまとめると、(1) コストの先送り、(2) 最終的に付与される特許の保護範囲や、所有者または競合社の製品・サービスと特許との関連性が予想しやすい点、となります。

デメリット: 特許付与につながる審査については各国・地域の特許庁に任されているため、PCTでの審査は制度として提供していません。また、PCTでは、国際審査段階 で追加のコストや手数料がかかります。最後に、各国・地域の特許庁は、IPRPが友好的な見解を示しても、それにはしばられず、出願書類を完全に審査す る、という点があります。


アラン・J・キャスパー

コラム・弊所に関するご質問・お問い合わせは弊所カリフォルニアオフィスまでご連絡下さい。

アラン・J・キャスパー弁護士(Alan J. Kasper)

シュグルーマイアン法律事務所(知的財産法専門法律事務所)所属、パートナー。詳細なバイオはこちら






記事についてのお問い合わせは、info@svjen.org まで。