第5回 特許のクロスライセンス制度

 John Inge Partner


基本原則

特許のクロスライセンス制度の話に入る前に、まず特許ライセンスの基本原則を理解することが重要です。特許ライセンス契約とは、乙が所有する特許下で保護 される製品を、製造、委託製造、使用、販売及び/又は輸入すること、或は乙の特許下で保護される手法を使用する権利を甲に許諾する契約のひとつでありま す。この実施権無しでは、甲は乙の特許権の侵害者となり、乙は米国連邦地方裁判所にて甲を告訴する事ができます。このような特許侵害訴訟を防ぐのが、この 特許ライセンスです。特許ライセンスの場合は、ライセンス料を支払う事を契約上で合意し、一時金に加えて販売量に基づいたロイヤルティ(実施料)を支払う という形式が一般的です。

特許のクロスライセンスは、2者以上の特許権保有者が、お互いに保有する特許権を相互・同時に実施許諾するものです。すなわち、複数の特許ライセンスがひ とつにまとめられたもので、ひとつのライセンス契約の際に同時に作成されるのが常です。クロスライセンス契約の中には、ライセンス料が義務付けられている ものもあります。その例として一方の特許権が他方より特に優勢な場合が挙げられます。例えば一方が主要技術の特許を保有し、他方が限られた特定の改良され た技術の特許を保有する場合がこの例です。他のクロスライセンス契約には、一時金及びロイヤルティの規定も含まれず、一つの特許権の実施許諾が、もうひと つの特許権の許諾に対する支払いとみなされる形式があります。

クロスライセンス制度の仕組みのもうひとつの特色は、改良特許を実施許諾できる点にあります。つまり、クロスライセンス契約の中で、契約の基本となる特許 の技術改良により将来的に新たに出願される特許をも、実施権の許諾の適用範囲に含む事を双方が合意する事ができます。この仕組みにより、乙が行った改良の 為、甲が市場から除外されてしまう危険もなく、双方が継続して最新製品を送り込むことができます。原告の保有する特許権が有効であり且つ被告の製品がその 特許を侵害しているケースでライセンス契約が必要・有効であると見受けられる場合、被告側は、特許を保有する原告から要求されたライセンス料の取り消し或 は軽減の為に、被告が保有する一つ以上の特許をクロスライセンス契約を希望できます。この場合、ライセンスされる特許は、すべて同じ技術分野のものである 必要はありませんが、実際はほぼ関連技術であるケースが通常です。

ゆえに、価値が有りライセンス化が可能な、できれば幅広い技術範囲の各種特許のポートフォリオを構築する事で、将来、他社からの特許権侵害の訴えを防御 し、又継続して自社製品を販売していく自由市場を確保する為の有効な投資となります。この意味で、特許を防衛的に準備しておく事が、多くの企業の特許政策 では主流となっていきています。特に自動車産業では、特許権によって他社による市場への参入を制御しながら、主要・基本技術の特許において互いに告訴し合 う事を控え、他の自動車企業とのクロスライセンスを希望する企業が多くみられます。

本来ならば閉鎖されている市場への参入促進

一つの企業が、特有の分野において、広範囲で優勢な主要・基本的特許を保有しているが、実践的な実装・製造方法或は、実用的で市場性の高い製品に必要な基 本設計や構想の改良に適用する特許を保有していない事があります。この場合、関連市場への参入を試みる企業は、実装技術と製造法を構築し、それぞれに適応 する一連特許を取得を行います。

これらの実装方法或は改良特許は、それぞれの技術範囲が狭い一方で、一連特許に必要な適用範囲が充分得られれば、主要・基本特許権を保有する企業が、実際 の製品を販売する為に、市場参入を図る企業からのライセンス契約が必要となる場合が多く見られます。本来ならば一方が市場からの撤退を強いられる所を、両 企業間のクロスライセンスによって、双方の市場参入が可能となります。

新技術規格のプロモーション

主要特許を保有する企業は、テクノロジーの包括的な成功を確保する為に製造業者間での提携が必要となる分野において、提携企業と共にクロスライセンス契約 を希望する事もあります。メモリ技術関連企業(例:ビデオテープやコンピュータメモリデバイス各種)においては時折こういったケースが見られ、メモリデバ イスを製造する企業と、録音・再生デバイスを製造する企業は必ずしも同じではありません。主要となる特許を保有する企業は、他の製造企業が従わなくてはな らない技術規格を規定する事ができますが、全企業の参加を可能にする為にも、最初のライセンシー(実施権者)が、改良特許ライセンス契約を行う事が重要で す。

特許権のプーリング協定

関連した分野で、特許権のプーリング協定があります。これは新技術の共同開発を希望する複数の企業が、各研究開発活動から生じる特許権の全てを相互にクロ スライセンス契約を行う事です。どの企業も基本となる特許を保有していない事もしばしばあり、異なる企業が異なる分野の新技術を担当します。研究開発に取 り組み、保有する特許権のクロスライセンスに合意する企業は、大抵の場合、ライセンス料を支払う必要がありません。その一方で、研究開発に参加しないが技 術の使用を希望する企業が、特許権プーリングの最初のメンバー(企業)によって開発された製品を発売後に、市場への参入を希望する場合は、市場参入の代償 として多額のライセンス料を支払わなければならないことも時折あります。大半は提携する企業が共に、共同特許権の許諾と管理の為にジョイントベンチャーを 設立します。比較的最近の例として、MPEG-2と3Gが挙げられます。

特許権のプーリング協定には、必要な特許権の『ワンストップショッピング』、補足技術の効率的な統合、研究開発費の削減、そして参加企業間での訴訟回避など、数々の利点があります。

しかしながら、特許権のプーリング協定は、結果的にマーケティング製品価格のコントロールともなり、しばしば裁判所より独占禁止法違反と見なされる事もあ るので、慎重に扱う必要があります。その一方で、特許権プーリング協定は、協定参加企業間の活発な競争及びクロスラインセンス契約を推進しています。特許 権のプーリング協定案を結ぶ前には、米国司法省と連邦取引委員会が共同出版している「知的財産の使用許諾に関する独占禁止ガイドライン」を参照する事をお 勧めします。

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John Inge
Partner


ジョン・R・インジ弁護士(John R. Inge)

シュグルーマイアン法律事務所(知的財産法専門法律事務所)所属、シニアパートナー。専門は、電気/機械工学、インターネット・ソフトウェアの分野の特許 出願・手続き、鑑定、ライセンス契約、特許有効性判断、訴訟及び、知財戦略アドバイス。電気工学と特許法を合わせた業務経験は30年以上に渡り、今現在は シリコンバレーオフィスと東京オフィスで特許法弁護士として活動している。1968年Carnegie-Mellon大学を卒業、Suffolk Law Schoolを1974年に卒業後、15年間日本に在住した。英語、日本語及びフランス語のマルチリンガル。






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