第7回 国際貿易委員会調査:悪夢となるかビジネスツールとなるか?

 Joseph Bach Partner


概要

米国地裁における特許訴訟は、米国内外の企業にとって日々の業務の大きな支障となることがしばしばあります。一般に、特許訴訟は莫大な費用と期間を要し、 数百万ドルのコストと数年間の歳月を費やすことが普通です。したがって、告訴された側の企業に多くの不安要素をもたらします。さらに、訴訟により告訴され た製品の開発に従事していた担当者や管理者に焦点が移り、市場における会社の評判に影響を与えることがあります。最悪の場合、特許権所有者に損害賠償や販 売差し止め権が与えられ、会社の事業を根本的に妨害する事もありえます。

事態がさらに悪化することもありえますか? ありえます。

特許所有者は、地裁と国際貿易委員会(International Trade Commission - ITC)に対して同時に2つの訴訟を提訴できます。したがって告訴された側は、適切な弁護を行うためにさらに多くの費用を投じることが必要となります。以 下に、ITCによる調査と米国地裁の取る手順との基本的な違いを簡単に説明します。一点だけ明確にしておきたい事は、ITC訴訟は被告側にとっては悪夢と なりえますが、原告側にとっては有益なビジネスツールとなりうるということです。


ITCの構造と権威

ITCは、委員会、行政法判事(Administrative Judges - ALJ)、委員会調査弁護士(スタッフ弁護士とも呼ばれる)から構成される連邦政府機関です。ITCは知的財産権侵害、独占禁止法違反、不正競争防止法に 関する国際通商問題を取り扱うことができます。原告側がITCに訴訟を提起した場合、委員会が提起内容を検討し、調査が必要かどうかを判断します。必要と 判断された場合には、その件を担当するALJが任命され、調査が開始されることが被告側に通告されます。ALJは、地裁判事が訴訟を管理するのと類似の方 法で調査を管理します。ただし、ALJの最終決定は委員会に対する勧告にとどまります。委員会はこの決定を検討し、多少変更を加えることもあれば、そのま ま委員会の決定内容とすることもあります。委員会による最終決定に対しては、米国連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit - CAFC)に上訴することができます。

興味深いことは、特許有効性に対する委員会の最終決定は、CAFCによって検討されたものであったとしても米国地裁を拘束するものではないという点です。 これは被告側にとって、さらなる訴訟と追加弁護費用につながることがあります。例えば委員会が、特許が無効であると判断した場合でも、この決定は地裁を拘 束しないので、特許所有者は地裁を通じて訴訟を提起すれば、特許の有効性に対する訴訟が地裁で引き続き行われることになります。

訴訟開始時に弁護士が争う付随的な事柄は一般的に、管轄権と裁判地です。これは、その裁判所が被告を管轄する権利があり、訴訟を扱うのに適した裁判所であ るかどうかを意味します。ITCではこうした区分はありません。ITCの管轄権は「in rem(対物訴訟管轄権)」と言われ、訴訟対象となっている輸入製品を指しています。したがって、委員会の決定は訴訟対象となっている製品のいかなる輸入 に対してまた、輸入者が被告であろうが他者であろうが有効です。ITCはまた訴訟における対人訴訟管轄権も有しているので、証拠開示手続きなども含め、 ITC訴訟に関する決定指令は当事者に対する強制力を持ちます。


当事者

一般に、地裁での訴訟ではPlaintiff(原告)とDefendant(被告)の2つの当事者が存在します。一方、ITC訴訟の場合は Complainant(原告)、Respondent(被告)、スタッフ弁護士という3つの当事者が関与します。Complainantと Respondentは地裁におけるPlaintiffとDefendantと同様ですが、スタッフ弁護士に該当するものは地裁での訴訟には存在しませ ん。スタッフ弁護士はアメリカ市民の権利擁護を目的とし、審理前供述書が提出されるまでは中立の立場を維持するのが普通です。スタッフ弁護士は証拠開示手 続きも含め、審理のすべてに関与します。審理前供述段階では、スタッフ弁護士は原告側を支持することもあれば、被告側を支持することもあります。スタッフ 弁護士の関心は米国市民の権利擁護であって、原告や被告の権利擁護ではないので、スタッフ弁護士がどちらを支持するかは、訴訟の進行に大きな影響をもたら し、場合によってはALJを説得するものであることもあります。

米国に実在する企業であれば、米国外で製造業務を行っているいかなる企業でも原告となることができます。これによって、米国に実在する海外企業が、他の海 外企業をITCを通じて提訴することが可能となります。たとえば、日本企業である富士フィルムが、使い捨てカメラの米国特許権侵害に対して中国の輸入業者 や製造業者を提訴しました。他の日本企業の一例として、ニコンがITCを通じて特許侵害訴訟をオランダのASMLに対して起こしています。面白い例とし て、台湾のUMCがITCを通じて集積回路技術の特許侵害に対して同じ台湾のSilicon Integrated Systemsを起訴をした件が挙げられます。

米国の消費者商品の多くは従来、日本・韓国・台湾から輸入されています。しかし、最近では中国からの輸入の急成長により、従来の輸出国は米国市場シェアを 減少させています。こうした市場シェアの低下を減速・防止する為に、ITC調査を武器にすることもできます。事実、2004年と2005年のITC調査の 三分の一が中国企業を被告とするものでした。


起訴に関する考慮

ITCは管理機関であって裁判所ではないので、陪審員による裁判は行われず、審理は経験豊かで優秀なALJを前に行われます。さらに、ITC訴訟の審理は 非常にスピーディに行われます。通常のケースは12ヶ月以内、複雑なケースでも18ヶ月以内に最終決定を出すという以前の法律は廃止されたものの、現行の 法律でもほぼ同様の迅速な審理が期待されています。したがって、原告側は訴訟に対する確固とした主張がなければならず、訴訟に対する十分な準備が要求され ます。一般に、調査開始に関する委員会の決定を得る前に、訴訟準備に必要な十分なリソースを確保しておくことをお勧めします。対照的に、被告側には準備期 間がほとんど無いにも拘らず、短期間に多額の弁護費用がかかります。ITC訴訟に要する弁護費用総額は地裁での弁護費用とほぼ同様のものとなりますが、期 間は短くてすみます。

また、ITCは賠償金支払いを命じることができません。その代わりに、ITCでは特許権を侵害する製品の米国への輸入販売を防止する輸入禁止命令や停止命 令を出すことができます。輸入禁止命令に違反した場合には巨額の罰金が科せられ、1日につき$100,000または輸入品目額2倍のどちらか大きいほうが 適用されます。輸入禁止命令は原告への今後の損害の防止に役立ちますが、これまでの損害を回収するためには原告は地検で訴訟ことが必要です。ただし、被告 はITC調査が終了するまで地検の審理を延期することができます。

ITC訴訟のもう1つのユニークな点は、原告は米国内での事業が確立している、あるいは確立段階でなければならず、原告または特許ライセンシーが少なくと も特許請求のひとつを実施していなければならないことです。米国内での事業確立要件を満たすには、工場や設備施設に対する実質投資、従業員雇用、特許開発 に対する資本投資などを提示する事が必要です。原告はまた、その事業と米国市場における活動を説明しなければなりません。

結論

米国での事業が存在し、迅速な決定を得ることが必要な場合、ITC調査は優れた裁判となりえます。製品特許に対する侵害や不公正な競争に直面している企業 は、ITCを通じた訴訟を企業としての対応策の一部と考慮すべきです。ITC訴訟は高額な費用がかかりますが、競合製品の輸入停止や特許権使用料徴収の可 能性がある事を忘れてはなりません。

一方、ITC訴訟の被告となることは、悪夢のような経験となるでしょう。その場合には、事態を深刻に受け止め、優秀な弁護団を速やかに確保し、適切な対応 に出る必要があります。優秀な弁護チームを雇う費用は非常に高額であるかもしれませんが、優秀な弁護団を確保しない事によって起こるビジネスに対する被害 は破壊的なものになりえます。

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Joseph Bach
Partner


Joseph Bach 弁護士

シュグルーマイアン法律事務所所属、パートナー。

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