第8回 自動車会社を揺さぶる後部ドア(テールゲート)

 Joseph Bach弁護士 Sughrue シリコンバレー事務所/シニアパートナー


中国でデザインを使用する企業にとって、特許権の保護対策は不可欠である。それはなぜか―Sughrue MionのJoseph Bachがその理由を解説する。

「やめてくれ!」と叫ぶと、冷や汗でびっしょりになってデイブは目が覚めた。「まさに悪夢だ」
夢のなかで、デイブはクライアントから、ある中国の企業がクライアントの製品のデザインを無断で使用しているので告訴してほしいと頼まれた。が、予期せぬ 運命の変化により、デイブはその中国企業の偽造行為を止めさせることができないばかりか、反対にその中国の会社が中国でデザイン特許を取得し、デイブのク ライアントを相手取って、クライアントの製品を中国に輸入したら訴訟を起こす、と脅していたのだ。
これを極端なシナリオだと思うかもしれまいが、日産自動車株式会社のトラック、Frontierのデザインを中国のGreat Wall Motor(長城汽車)社が無断で使用するのを日産が阻止しようとしたときの状況がまさにこれだった。日産はFrontierを長年世界で販売していた が、Great Wall社はFrontierのデザインを含むデザイン特許を得ることが可能だった。中国の特許法と日産のFrontierの市場販売方法の双方の特殊性 により、日産はGreat Wall Motor社の特許を無効にすることができなかった。本記事ではそのような特殊性を考察し、中国市場への参入を考えている企業の体験に基づく教訓を取り上 げる。
中国特許法の第23条によると、特許権を認めるべきデザインは、特許申請日前に当該国および外国において公に文面で発表されていないもの、当該国で公に使 われていないもの、またはその他いかなる人の既存の法的権利と抵触しないものでなければならない。第23条の文言からは、デザインは新奇で非自明性のもの (着想段階のものを含む)であることが要求されているようである。しかし、ここで注目したいのは、デザイン特許の申請に対しては事前審査(手続きのチェッ クや利点の審査)しか行われない、ということである。その申請も、単に六方向から見た図を提出すれば済み、手続きにのっとっている限りデザインの認可がお りる。そのため、SIPO(中国知識産権局)はいままで何千ものデザイン特許を認めているが、その多くが無効である可能性が高い。ちなみにわたしの経験か らすると、疑わしいデザイン特許の多くは意図的に取得されたものでなく、特許システムとその基本前提に対する知識の欠如によって取得されたものである。

無効手続き

デザイン特許を無効にするためにはSIPOに無効訴訟手続きを申し立てる必要がある。それは中国では法廷で特許の有効性を裁決することができないからだ。 特許の無効性はSIPOの特許再審査委員会(Patent Re-examination Board)の審決によってのみ決まる可能性がある。人民法院が無効手続き完了まで延期を認める可能性はあるが、保証はない。しかし一方で、取得済みのデ ザイン特許を無効にするには、特許済みデザインを全六方向から見た図を載せた印刷物もしくは中国における使用の証明を作成しなければならない。中国におけ る使用の証明の作成については、中国市場に参入したばかりの企業にとっては不可能な場合もある。一方、全六方向から見た図を載せた印刷物も不可能な場合が ある。日産もそのケースで、日産のFrontierのカタログのどれにもFrontierトラック後部は掲載されていなかった。Frontierトラック の後部はあまり見栄えがしないと日産のマーケティングチームが考えたからだ。この1方向からの図(後部ドア(テールゲート))がかけていたがために、日産 はGreat Wall社の特許を無効化することができなかった。
日産の訴訟における判決には違和感を覚えるが、中国のデザイン特許法を貫くデザイン全体という考え方とは一貫している。第23条により無効を裁決するうえ で基準となるのは一般消費者の基準である。一般消費者が、問題となっているデザインと既存のデザインを製品全体から見た際、違いがないと判断すると特許再 審査委員会が判断した場合、そのデザイン特許は無効になりうる。しかし、それは製品を部分的にではなく、全体にわたって比較したときの違いの存在に限られ る。

デザイン全体という考え方

このデザイン全体、つまり製品を全体として見るという考え方は最初の訴状提出と審査手続きに等しく当てはまる。重要な点は、デザイン特許は製品全体のデザ インについてのみ申請可能であるということだ。デザインの一部のみの特許申請はできないのである。つまり、国によっては、申請者は製品の一部のみに特許保 護を求め、それ以外の部分は申請時に点線で示して済ませることが可能である。たとえば、ヘアブラシの毛のレイアウトデザインのみ特許で保護したい場合に は、毛のレイアウト部分のみ実線で、ブラシの残りの部分は点線で描いた図面を提出することが可能である。これは、保護したいのは毛のレイアウトだけで、 取っ手部分のデザインは関係ないということを示すのに使われる手法だ。しかし中国では、このような申請はおそらく却下されるだろう。中国では申請は製品全 体のデザインに対して行われなければならない。
それゆえ、点線部分を含む申請によって中国におけるデザインの優先権を申請しようとすると、点線部分が含まれていては申請は却下される、しかし、図面の点 線を実線に変えても、中国での申請が優先権書類とは異なる対象に対するものなので、優先権の争いで敗北する可能性が高いといったジレンマに申請者は陥る。 ゆえ、中国で申請するには中国向けの図面を用意し、優先権の申請と同時に申請するのが最善策である。
全体としてのデザインという考え方は、通常同時に販売されるふたつの製品を網羅し、互いに補完するようなデザインの保護に対しても当てはまる。ふたつの製 品は同じクラスで、セットとして用いられる必要がある。最もいい例は、二つでひとつのデザインとなる塩とこしょうの入れ物など、雄型と雌型で対になった製 品だろう。申請ではふたつの製品は1つのセットとなり、全体のデザインとして承認されることになる。
結論をいえば、中国市場参入を考えている企業は第三者が所有している疑いのあるデザインとの衝突の可能性を避ける、または減らす対策をとるべきである。ま ず、中国における活動について詳細に文書化し、製品の国内における使用の証明をスムーズにできるようにしておくこと。該当製品の六方向からの図を含み、輸 入と販売の日付を記載することが望ましい。第二に、デザイン特許申請の提出にはそれ相応の費用をかけるべきである。申請自体は比較的高額というわけではな いし、また、将来面倒なことになるのを避けることができる。第三に、市場参入前に製品を含むデザイン特許をとっている第三者がいるかどうかを調査し、もし いるのならばその特許を無効にするとよいだろう。



Joseph Bach弁護士
Sughrue シリコンバレー事務所/シニアパートナー




Sughrueのシリコンバレー事務所のシニアパートナー。特許の起訴や訴訟など、知的所有権法のあらゆる観点からクライアントのコンサルティングを行 う。知的所有権のポートフォリオを効率的かつ効果的に構築・管理するツールや方法論の開発に従事。さまざまなテクノロジー分野における訴訟を手がけて成功 を収め、またITCや連邦裁判所での訴訟経験がある。法曹界や企業のイベントや会議に招聘されて講演することも多い。
前職において、世界的半導体産業へ設備を供給する世界最大のサプライヤー、アプライド・マテリアルズ(Applied Materials)の知的所有権シニアディレクター。アプライド・マテリアルズでは多数の企業グループの知的所有権戦略を管理・実施、特許保護業務の監 督、買収目標企業の知的所有権の評価、知的所有権契約の交渉、製品認可手続き、特許訴訟での弁護などのあらゆる知的所有権に関する業務に国際的に関わっ た。
デューク大学で法律の学位、カリフォルニア・インスティテュート・オブ・テクノロジー(Caltech)でエンジニアリングの学位を取得。AeA/スタン フォード・エグゼクティブ・インスティテュート卒業。シリコム・ベンチャーズ(Silicom Ventures LLC)審議会員。






記事についてのお問い合わせは、info@svjen.org まで。