シリコンバレーにおけるベンチャー投資の状況(2007年第3四半期)

SVJENウェブサイト編集委員 八木誠吾氏

 先般パ ロアルト市内のホテルにおいて、米国大手監査法人PricewaterhouseCoopersと米国ベンチャーキャピタル協会(the National Venture Capital Association: NVCA)による2007年第3四半期のベンチャー投資動向調査レポート「Money Tree Report」の報告会が開催された。報告会では、米国におけるベンチャー投資実績の最新データが報告されると共に、そのデータを基に、現在のベンチャー 投資トレンド並びにベンチャー企業を取り巻くビジネス環境の現状と将来動向について、パネリストや参加者の間で活発なディスカッションが行われた。
 2007年Q3の米国におけるベンチャー投資は、$7.1B/887案件であった。これはQ2の$7.2B/1000案件と比べて微減であるものの、過去数年の動向(下図)から大局的に見ると、ベンチャー投資は堅調であるとの意見が大勢であった。



 地域別の2007年Q3ベンチャー投資額および案件分布を見ると、シリコンバレーが総投資額の35%、総案件数の約1/3を占めている(下図)。米国内 のベンチャー投資ビジネスにおいてこの割合はほぼ一定であり、シリコンバレーが常にベンチャー投資の世界で重要な地位を占めていることを端的に示すデータ であると言えよう。また別のデータによると、New England地域の投資額が全体に占める割合がこの1年で伸びている(10% in Q3/2006 → 14% in Q3/2007)一方、LA/Orange Countyの割合が減少しているとのことであった。



 また、産業別の2007年Q3ベンチャー投資額および案件数は下図表の通りであった。ソフトウェア関連($1.11B/187案件)とバイオテクノロ ジー($1.09B/99案件)が上位2分野であることは、至近の傾向として継続している。今期注目すべきは、両トップ2分野への投資総額がQ2実績を下 回る一方、Clean Techを中心としたエネルギー分野への投資が急増していることである。エネルギー分野への今期の投資は$921B/83案件となり、Q2実績比で金額が 80%増、案件数が35%増であった。エネルギー分野が投資先の上位3位内にランクされたのは2007年Q3が初めてとのことである。



 投資先ベンチャー企業のステージ別に見た投資状況によると、起業に伴う資金調達時の出資(Seed/Early stage)よりも、ベンチャー企業が成長軌道に乗り、事業拡大(Expansion stage)やExit(Later stage)に近いステージにおける投資が多いことがわかる。Seed/Early段階の投資案件平均額が$5.6M(2007年Q3)であるのに対し、 Expansion段階の平均は$9.2M、それ以降の段階(Later stage)での平均は$10.3Mと、投資額が大きくなっている。このデータに対し本会の参加者からは、最近のベンチャーキャピタルの傾向として、 Exitの可能性が高い案件(ExpansionやLater stage)に大きな額を投資することで、早期の投資回収を狙うケースが多い、との意見が出ていた。



 次の表は2007年Q3の大型投資案件トップ10を示している。今期は、$50M以上の案件が9件、内$100M以上の案件が2件あったことからも、投 資額を大きくすることでより大きなリターンを目指す傾向が読み取れる。また、Clean Techの大型案件に対するコメントとして、最近の太陽電池メーカーらによるNASDAQでの“ホームラン“IPOの事例が、Clean Techへの投資の呼び水になっていることに加え、投資先企業の価値評価を引き上げる傾向がある、との声も聞かれた。



 ベンチャーキャピタルの動向として、2007年Q3における投資家別投資案件数が示された。Draper Fisher Jurvetson(DFJ)やKleiner Parkins Caufield & Byers(KPCB)といった大手ベンチャーキャピタルは、実に週2案件のペースで投資を行っているとのこと。また、コーポレート・ベンチャーキャピタ ルは、通常自社の戦略的ビジネスパートナー発掘を目指した投資を行うため、投資案件数は少ない(Due Diligenceに時間をかける傾向もあるため)と一般的に考えられるが、インテルのコーポレート・ベンチャーキャピタルであるIntel Capitalが今期12案件でランク入りしていることは同社ビジネスの積極性を示すものであり、非常に興味深い。



 ベンチャーキャピタルからの投資を受けた企業のIPOとM&A案件数の経年データを見ると、IPOが少し増加傾向にあることがわかる。しかし、 会場からはIPOはExitとして現時点では良い方策ではないとの意見が多く出ていた。米国企業改革法(サーベインス・オクスレー法:SOX)による上場 手続きの厳格化により、収益の小さい企業(年間売り上げが$50M~$100M程度)が、売上げの半分を弁護士費用に取られてしまうことを懸念しIPOを 断念するケースがあり、NASDAQがベンチャー投資のIPOによる投資回収の機会を損ねているとの不満の声が上がっていた。他方、M&Aは案件 数が減少しているものの、一案件当たりの金額が大型化する傾向があり(2007年Q3は平均$226M)、IPOよりもM&Aの方が現実的なベン チャー投資のExitとして存在感を示しているようである。



 ベンチャーキャピタルの資金調達状況については、前年と比べて低調であるとの報告があった(下図)。背景として、サブプライム問題を引き金とする米国経 済全体の落ち込みを懸念する意見が会場から聞かれた。これに対して本会のパネリストは、「シリコンバレーの不動産にはサブプライム問題の影響は感じられな いものの、サブプライム問題は米国中部や南東部の低所得者層の消費動向に大きな影響を及ぼしており、今後は機関投資家らの動きへと連鎖し、ベンチャー投資 減少につながる可能性は否定できない」とコメントしている。



 最後に、海外でのベンチャー投資について報告があり、中国市場への関心の高さが目立った。2007年Q3における米国ベンチャーキャピタルの中国市場へ の投資は、$206M/31案件。2007年の中国でのベンチャー投資総額は、年間$2.5Bに上ると予想されており、前年比50%の増加である。投資元 は、米国から10%、他国からが73%を占めており、中国国内からの資金調達はわずか17%(2006年実績)となっている。中国市場は依然当局による規 制が大きなリスクとなる恐れがあるものの、中国のインターネット市場規模が2003年$5Bから2007年$50Bに拡大し、米国のインターネット人口を 2008年には上回る勢いを示しており、Ciscoが今後5年で中国において$16Bの投資計画を発表するなど、好材料がリスクを上回っているため、ベン チャー投資も益々盛んになるとの見方が示されていた。


参考データ:
・Q3 2007 Shaking the MoneyTree (at Palo Alto on November 29, 2007)配布資料
・MoneyTree Report Home(https://www.pwcmoneytree.com/MTPublic/ns/index.jsp


SVJENウェブサイト編集委員 八木誠吾氏




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