「振り子はふたたび小さな政府に振れるのか、オバマ民主党“中間選挙”敗色濃厚の真相」

トランス・パシフィック・ベンチャーズ(Trans Pacific Ventures LLC
President & CEO
安藤 茂彌氏 (Shigeya Ando)

振り子はふたたび小さな政府に振れるのか、オバマ民主党“中間選挙”敗色濃厚の真相

11月2日には中間選挙が行われる。中間選挙は大統領の任期半ばに行われる選挙で、上院議員の1/3の改選、下院議員の1/2の改選、州知事の改選が行われる。二年前にはオバマ大統領が誕生し、オバマ氏の属する民主党が大躍進をした。今回の選挙では、共和党がオバマ政権に対する批判票をどこまで集めて、勢力を挽回するかが注目されている。

最近行われた世論調査(ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCテレビ局の共同調査)では、共和党の優勢が伝えられている。最も注目されているのは下院の勢力図で、共和党の下院支配を望むのは46%に対し、今の通りの民主党支配と望むのは44%と僅差ながら共和党に軍配が上がっている。

オバマ大統領の支持率はどうか。就任当初に6割を超えていた支持率は、半年前に45%にまで下落したが、その後盛り返し、今では5割を若干切るところまで回復している。選挙直前の2-3週間に、オバマ大統領とクリントン前大統領は接戦が伝えられる大都市を精力的に回り挽回を図る予定である。今でもクリントン氏の人気は高い。この二人が回りだせば共和党の優勢が崩れる可能性があると見る記事もある。

これに対し共和党では有権者をひきつける役者がいない。ブッシュ前大統領を担ぎ出すのは逆効果であることを共和党は知っているし、二年前の大統領選でオバマ氏と競ったマケイン議員でも力不足である。そのためか、ブッシュ前大統領はまったく顔を見せないし、マケイン議員も登場する場面がない。

オバマ大統領の支持率低下の原因は何であろうか。最も大きいのは経済要因である。

失業率は依然高く、景気回復のスピードが鈍いことからくる選挙民の不満である。失業率はピークを超えたとは言え9.6%と高いし、景気も昨年6月を底に回復基調に入ったとは言うものの力強さに欠ける。世論調査で「今後一年間に景気が回復する」と見る人は9月の32%から10月には37%に増えており、徐々に楽観的な見方が広がりつつある。

もうひとつの原因は、オバマ政権の施策により財政が更に悪化したことと、政府が経済活動に介入する余地を増やしたことである。

オバマ政権は昨年2月に8800億ドル(約70兆円)に及ぶ景気刺激策を実施した。この中には、本来の景気刺激策のほかに、GMとクライスラーの救済、AIGやシティバンク等の巨大金融機関の救済が含まれていた。公的資金を使って連邦政府が一時的な株主になる形での救済方法であったが、国家の介入を排除した純粋資本主義を信奉する人たちから批判されているのである。

今年に入って、オバマ政権は医療改革法、金融改革法を相次いで制定した。医療改革法はアメリカ建国以来はじめて国民皆保険を実現したものだが、財政赤字を増やすことは確かである。他方、金融改革法は財政負担が余り生じないものの、政府による金融機関の監督権限が大幅に強化されており、国家の介入を喜ばない人には歓迎されない法律である。

だが、このような反対は当を得ているだろうか。ちょうど二年前にリーマン・ブラザーズが破綻して、アメリカ発の信用不安は世界経済全体を不況に陥れたのである。もしオバマ政権が大型の景気刺激策を打ち出していなかったら、アメリカのみならず世界経済が未曾有の不況に陥っていただろう。アメリカの信用が今以上に失墜したことは間違いない。

「政府の介入は避けるべし」というが、実態を見ると、米金融機関の監督はまったく行われていないに等しかった。他国では当然実施されている監督が行われていなかったのである。米国では1933年の大恐慌の後にグラススティーガル法という金融監督法が制定されたが、米国大手金融機関は「国際競争力強化」を合言葉に、この法律を次々に骨抜きにしていった。こうした骨抜き行為はブッシュ政権時代(共和党)に頂点に達した。

大手金融機関は目先の利益追求にやりたい放題やった。クレジットカードの借入には20-40%の高金利をつけ、本来借入できないはずの人々にサブプライム住宅ローンを売り込んで不動産相場を煽り、こうしたローンをリスクが判別できない金融商品に作り変えて世界中に売りさばいた。

そして銀行経営者と相場師は億単位の報酬を手にした。こうした無謀な金融取引を展開した投資銀行が連邦準備銀行(中央銀行)の監督下になかったのは世界の驚きであった。

医療保険制度は長らくこの国の恥部であった。先進国でありながら、人口の15%に相当する4700万人が健康保険に加入できない異常事態が起きていた。健康保険会社は民間企業であるために儲けを優先する。そのため既往症のある人は保険会社から加入を断られる異常事態が起きていた。そのうえ健康保険料は日本の10倍の高さであった。クリントン政権時代に医療保険制度を改革する動きがあったが、業界の圧力で潰された経緯がある。

日本の常識ではすんなりと成立しそうな改革法であるが、この国では多くの紆余曲折があった。オバマ大統領が当初考えていた原案にはいくつもの修正が加えられた。時には「社会主義者」とレッテルを貼られたこともあった。反対の多くは共和党からきたが、民主党の中でも異論がでた。日本ほど政党の拘束力が強くないこの国では、修正を加えながら歩み寄ることが可能である。修正に修正を重ねてようやく実現した。

オバマ大統領が就任後2年足らずの間に、重要な法案をいくつも成立させたのは高い賞賛に値すると思う。それでも支持率が5割を切っているのは何故だろうか。二つのグループがある。ひとつは改革によって今までの自由を奪われるグループである。金融業界、健康保険業界、医療関係従事者といったグループである。もうひとつは規制が多くなって自由な資本主義の発展が阻害されると考えている人々である。

民主党はある程度の規制をしてでも所得の分配を平等に近づけたい、そのために政府の役割が大きくなるのは仕方ないと考えている。共和党はこれに対し、資本主義は優勝劣敗の世の中であり、資本主義の活力を保つためには規制は少なければ少ないほうが良いし、政府は小さければ小さいほど良いと考えている。アメリカ人ならば誰でも賛成する「アメリカン・ドリーム」は共和党の考えに近い。アメリカ人に根ざしたDNAと考えてよい。

この国が二つの改革法で「ようやく普通の国になった」と考えると、先行きを見誤る恐れがある。この国は「日本流の普通な国」ではない。「資本主義」、「自由主義」が人間を幸福にすると信じている国民である。「社会主義」は異端であり、「共産主義」に至っては国外追放に値するほど許せない考え方である。90年代初頭のソ連の崩壊からアメリカ人はますます「資本主義の勝利」を確信するようになった。

「アメリカ流の普通な国」とは、個人それぞれが自立して自分の人生を設計し、それを力強く実現することである。企業や国家に頼ることは考えていない。たとえある企業に就職しても、その企業で自己実現できないとわかると、さっさと他の企業に移る。会社勤めを続けていては自己実現できないと悟ると躊躇せず起業する。格差なんて気にしない。悔しかったら勝てばよい。あくまでも自分が自分の人生をどう送るかが最大の関心事である。

今回の中間選挙では、政党本来の考え方を国民の審判に委ねる意味があるように思う。ブッシュ政権時代には規制はなければないほど良いとして、企業に思い切り自由に活動させた。だが、自由放任資本主義では格差が広がるし、国民生活に歪みも起きる。ブッシュ政権時代に顕在化した放任資本主義の「負の部分」を矯正したのがオバマ政権である。

オバマ政権は放任資本主義の内部崩壊を防ぐために、景気刺激策を発動せざるを得なかったし、サブプライムローンの爆発を抱えて金融危機の再発防止に注力をせざるを得なかった。政権が発足して二年足らずの間によくやったと思う。だが、これからどういう施策を打つかが次の課題である。

中間選挙の結果予想で与野党の勢力図は拮抗している。余り規制を増やして社会主義的な政策を打ち続けると多くの国民との距離が乖離する。2012年に大統領として二期目を狙うのだったら、共和党寄りの政策を打ち出していかなければならない。「日本流の普通な国」を実現した民主党政権ではあるが、「アメリカ流の普通な国」を希求する共和党の思想を取り入れていかないと、偉大な大統領にはなれないのである。

翻って日本の状況を見てみよう。日本経済はこの20年間ゼロ成長であった。余りに多くの規制を作りすぎて、日本人の自由な活力を殺いできたのが原因のひとつではないだろうか。特に、民主党政権になってからは「社会主義路線」と疑われるような政策が打ち出されている。

我々はこの二年間のアメリカ経済の破綻を通して、純粋な自由放任資本主義では問題が多いことを学んだ。また90年代初頭のソ連崩壊で、社会主義路線は国家を破滅に導くことを学んだ。これから日本が資本主義国として経済成長を志向するならば「日本流の普通な国」に止まっていてはならない。今の日本に必要なのは「アメリカ流の普通な国」にもっと近づけることではないだろうか。

 

ベンチャーアクセス「シリコンバレーコラム」2010年10月より転載)

安藤 茂彌氏 (Shigeya Ando)