「見えてきたGMとクライスラーの最期」

トランス・パシフィック・ベンチャーズ(Trans Pacific Ventures LLC)
President & CEO
 安藤 茂彌氏 (Shigeya Ando) 

 

オバマ大統領はGMとクライスラーの救済策を発表した。これは両社が新たな公的資金を受けるために2月に提出した再建計画をベースに、政府が判断を下したものである。GMとクライスラーのそれぞれについて、政府の決断を追ってみると次のようになる。

 GMは経営の間違いが大きい。利益率の高いトラックやSUVに注力し、消費が望む低燃費の乗用車の開発を怠ったことと、低品質の車を作り続けたことが消費者のGM車離れを起こした。その結果、米国でのシェアは、45%(1980年)から36%(2000年)、29%(2008年)と大きく後退した。欧州でもシェアは1995年の12.9%から2008年には9.3%に落としており、晩回は容易ではない。

 GMは環境対応でもトヨタに10年の遅れをとっている。電気自動車Chevy Voltの投入を計画しているが、製造コストが高く価格競争力のある製品にならない。GMの製品はトラック・SUVが多くCAFE(2020年までに1ガロンで35マイル走行を義務付ける燃費効率規制)に対応するには相当な努力を要する。

 GMの再建案では2009-14年の6年間に145億ドルのマイナス累積キャッシュフローを見込んでおり、2014年に到ってもプラスに転換できない。実際に必要となる資金は、これをさらに上回る可能性が高い。こんな状況では公的資金を投入できない。

 GMがいまやるべきことは、労働組合からの大幅な譲歩、債権者の大幅な債務免除を取り付け、GMが単体で生き残れるようにリストラに大ナタを振るうことである。ワゴナー会長兼CEOは辞任し、新しい経営陣で労働組合の譲歩、債権者の債務免除等を実現して欲しい。GMが60日以内にこれを実現できなければ、政府はチャプター11(日本の民事再生法に相当する倒産手続)を開始するとしている。

 クライスラーの状況はGMより更に悪い。米国市場でのシェアは1998年の16.2%から昨年には10.2%に低下している。すべての車種で赤字に陥っている。製品の質がGMより更に悪い。また成長が予想される中小型車市場に投入する開発中の新車がない。他社では当たり前になっている、一つの生産ラインで複数の車種を製造できる体制もできていない。同社の製品群中にはCAFEに対応するのに難しい機種が多い。

再建案では2010-14年に毎年5-10億ドルの赤字を見込んでいるが、実際の赤字はこれを大幅に上回る可能性がある。従って、伊フィアット等からの外部支援がなければ、クライスラーが生き残ることは難しい。30日以内にフィアット社と正式な契約を締結できたら60億ドルの公的資金を投入する用意がある。これができなければ、政府はチャプター11を開始するとしている。

 政府の回答は「救済策」というよりは「倒産の予告」である。国民の8割がGM、クライスラーの支援に反対しているし、AIGの救済で経営者のお手盛りボーナスを見逃してしまったオバマ政権にとって、安易な支援はできない。「GMに倒産の選択肢はない」と強気の姿勢を取り続けたワゴナー会長を首にしたのも、倒産手続に道筋をつけるためである。後任のCEOになったヘンダーソン社長は「倒産の選択肢を含めて努力する」としている。

体力のないフィアットにクライスラー再建は難しい

クライスラーの救済にフィアットを当てにできるのか。クライスラーとフィアットは今年の1月にフィアットが小型車の技術を無償供与する代わりにクライスラーの35%の株主になることで合意した。しかし、オバマ政権は35%を撤回して20%の株主になることを求めている。また、フィアットがクライスラーの過半数の株主になる場合には、クライスラーに貸し付けた公的資金を完済することを求めている。

 だが、フィアットにはクライスラーの今後の赤字を埋め合わせるほどの体力はない。フィアットは2004年までは赤字会社であった。果敢なリストラを行い、2007-08年には20億ドル台の最終利益を計上できるまでに回復したが決して盤石ではない。格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ社は、最近同社の格付けを「BBプラス」に引き下げている。この格付けはフィアット自体も危険水域にあることを示している。

 フィアットがオバマ政権の提示した条件を呑む可能性は薄いと見る意見が米国内では支配的であるが、それでも合意に到った場合には、この弱者連合が遠くない将来に再び危機に陥る可能性がある。

 GMとクライスラーがここ1-2ヵ月で倒産手続に入る現実が近づいてきた。では、再生の道筋はどのようになるのだろうか。GMの再生について、オバマ政権は次の方法を検討しているといわれる。

新しいGMを政府主導で設立して、いまのGM(旧GM)の生産ラインのうち競争力のある車種のラインを新GMに営業譲渡する。これにより新GMは旧債務、旧労働組合、旧販売網を引き継がずに再出発できる。旧GMは現存資産の売却を進め、残った資産で旧債務をできる限り返済する。並行して従業員の解雇を進め、最終的に清算する。

企業は「消費者資本主義」に立ち返るしかない

GMとクライスラーの破綻は我々に色々な教訓を残してくれた。

 GMは自社の競争力が脅かされると、アメリカ政府を動かして諸外国の有力メーカーに対米輸出の自主規制を求めてきた。燃費効率の良い車が作れないとなると、アメリカ政府を動かして、燃費規制の例外措置を認めさせてきた。この結果、大型車に依存する体質になり、最終的には自らの首を絞めることになった。政治力を駆使してたとえ生き延びたとしても、企業として競争力を失えば退場しなければならない教訓を残した。

 米国にはJ. D. Power and Associatesという調査会社がある。新車を購入した消費者に90日後にアンケートを取り、顧客満足度を調査し、結果を公表する会社である。トヨタ、ホンダ、ベンツ、BMWが顧客満足度で高い得点がつくのは以前から知られていたが、2007年の調査でフォード車への満足度が大幅に高まってきたと公表した。今回の危機で、同じビッグ3でもフォードだけは政府に支援を要請することなく経営している。消費者のニーズに合った製品を作り続けない企業は、早晩退場せざるを得ない教訓を残した。

 コーポレート・ガバナンスという言葉が持て囃された時期があった。ワゴナー会長は2000年にCEO(最高経営責任者)に就任後、一貫して市場シェアを失い、GMを巨大な赤字会社に転落させた。それでも取締役会はワゴナー会長を解任しなかった。ワゴナー会長は取締役会を自分の仲良しクラブにしていたのである。解任したのは部外者のオバマ大統領だった。GMにはコーポレート・ガバナンスがあったのか。ワゴナー会長には24億円の退職慰労金が支払われるという。

 株主資本主義という言葉が持て囃された時期もあった。株主におもねって短期の利益を追い、自分はストックオプション等で億単位の報酬を手にした経営者が優秀な経営者と呼ばれた。だが、経営者を裁いた神様は「株主」ではなかった。本当の神様は「消費者」だった。「消費者資本主義」こそ、本当の資本主義ではないだろうか。そして、経営者に不断の努力を強要する「最も厳しい資本主義」であるように思う。GMとクライスラーは日本企業が「他山の石」にできる良い機会を作ってくれた。

ベンチャーアクセス「シリコンバレーコラム」2009年4月より「「転載)
 

安藤 茂彌氏 (Shigeya Ando)