「初心を忘れたトヨタに米消費者は不信を募らせている」

トランス・パシフィック・ベンチャーズ(Trans Pacific Ventures LLC
President & CEO
安藤 茂彌氏 (Shigeya Ando)

 

 初心を忘れたトヨタに米消費者は不信を募らせている

 

 

 昨 年828日にカリフォルニア州サンディエゴで恐ろしい事件が起きた。ハイウェイパトロール隊員であるMark Saylorさんは、休日にレクサスES350に家族を乗せてハイウェイ125号線を運転していた。レクサスは突然加速を始め、ハイウェイの終点でも止ま らず、その先のT字路でフォード車と接触した。それでも止まらずにT字路を突っ切って川の堤防を駆け上がり、水のない川底で炎上した。家族4人全員が死亡 した。

 

 

 レクサスは時速160キロで走っていたと推測され、同乗していた妻が死の直前に携帯から911(日本の110に相当)に通報し、原因不明の暴走の 状況を伝えていた。録音された通報はテレビ番組で報道され、多くの視聴者が車内のパニック状況を生々しく聞いた。米運輸省高速道路安全局が事後調査を行ったが、証拠物件が焼けただれており原因不明と結論付けた。

 

 

 昨年1221日にはメリーランド州エルクリッジ市で別の事件が起きた。2009年型トヨタ・カムリを運転していた女性が、ショッピングセンター の駐車場で空きスペースを見つけて駐車しようとした。ブレーキを軽く踏んでいたときに、いきなりカムリが動きだし猛烈に加速し始めた。女性は思いっきりブレーキを踏みこんだが、それでも止まらず、縁石を飛び越えてヘアーサロンに突っ込んでようやく止まった。

 

 

 ヘアーサロンは腰ぐらいの高さのレンガの壁に囲まれていたが、それも打ち破ってサロンの玄関から突っ込んでいった。路面にはタイヤの跡が黒く残り、タイヤの焦げる匂いがした。1-2か月前にトヨタのディーラーから運転席のフロアマットがアクセルペダルを押し込む可能性をある旨の書面が届いていたので、フロアマットは後ろのトランクの中にしまってあった。女性はフロアマットが突然加速の原因とは考えられないとしている。

 

 

原因の特定と対策がチグハグという疑問

 

 

 トヨタ車が突然暴走する事件は1999年から今年119日までに2262件報告されている。これによる衝突事故は819件で、ケガ人は341 人、死亡者は26人に上っている。車種別にみるとカムリが131件とダントツに高く、レクサスESモデルが48件とこれに続き、タコマ31件、シエナ20 件の順となっている。(安全性を専門分野とする調査会社Safety Research & Strategies社の調査:Toyota Sudden Unintended Acceleration 201025日)

 

 

 米運輸省高速道路安全局は2003年に、上記4車種で起きた車両暴走事件8件を詳細に調べたが、5件は原因不明、3件はゴムで作った分厚いフロアマットが原因と結論付けた。フロアマットを固定しておかないと、位置がずれてアクセルペダルに絡みつき、加速してしまうというのである。トヨタは調査結果に基づき小規模なリコールを行った。

 

 

問題が起きている米国製の車種に搭載されているアクセルペダルは、インディアナ州のCTSという米企業が開発したものである。トヨタは次にこのペダルに問題があると疑い出した。ペダルを踏み込むと元の位置に戻るのに遅い場合があるという。

 

 

 その後のリコールではこのペダルを新型のペダルに取り換えることにした。さらに最近のリコールはブレーキの液が漏れることに原因がある可能性があるとして、この可能性のある車種をリコールしている。

 

 

 筆者には原因と対策がチグハグに見えてならない。トヨタ車の突然の暴走を経験した人の話を総合すると、原因は2つある。ひとつにはアクセルペダル を踏んでいないのに、突然車が暴走することである。二つ目は暴走が始まると凄い力でブレーキを踏み続けないと車が止まらないことである。トヨタが対策として取ったリコールは、フロアマットの変更、アクセルペダルの変更、ブレーキ液の漏れ防止策である。

 

 

 原因は機械系統ではなく、電気系統ではないのか、トヨタの電気系統の設計に大きな欠陥があるのではないかとの見方が米国では広がっている。一部の専門家からは、何らかの原因でスロットルが開き加速してしまう可能性(たとえば、ブレーキを踏んでも、スロットルが開いたままの設計になっており、ブレーキが効かずに事故を起こしてしまうという疑い)が指摘されている。

 

 

 では何が原因でスロットルが突然開くというのか。専門家の間では磁場の干渉を防止する設計が不徹底なのではないかと噂されている。だがトヨタはこれまで設計の不備を追及されると常に次のように説明している。

 

 

 「トヨタの電気系統の設計は二重の安全設計になっており、そこで異常が起きるとエラーが検知され、自動的に対策が打たれるように設計されている。事故車ではこうしたエラー・メッセージがでていない」

 

 

 だが現実には事故が続いている。なぜトヨタはエラー・メッセージが出ない自社の設計そのものを問題視しないのだろうか。

 

 

 米運輸省高速道路安全局の姿勢にも問題がある。同安全局はなぜ設計問題でトヨタを追及しないのかにも疑問が投げかけられている。この機関は消費者の苦情を受け付け、これをメーカーに伝えて改善策を取らせることを目的として設置された米運輸省の下部機関である。本来はメーカーに対して業務改善命令、販売停止命令等の強権を発動することができるにもかかわらず、こうした権限を行使したことがない。
トヨタの対応の拙さに米消費者は猛反発

 

 この機関に設置された事故調査班は47名の少人数で年間に38000件に上る苦情を受理している。スタッフ不足のために深く原因を追及することをせず「通り一遍」の被害調査しかしない。メーカーが大丈夫だと言えばそれを受け入れてしまう。

 

 

 しかもこのスタッフの中には電気系統のことをよく理解している人はひとりもいないと言うお粗末さである。米消費者はこの機関は消費者の味方になっていないと批判している。トヨタは同安全局に数年前まで勤めていたスタッフ2名を同社のワシントン事務所で採用している。

 

 

 トヨタは消費者のフロアマットの使い方が悪いと消費者に責任をなすりつけ、次にペダルの不具合が原因と米部品メーカーに責任をなすりつけた。だが自社製品にはまったく欠陥がないと一貫して主張し続けている。トヨタのこうした態度に米消費者は反発している。

 

 

 同社は対外的には強気の姿勢を保ちながら、部品にリコールをかけることで消費者に車を販売店に持ち込ませ、部品交換と同時に電気系統のプログラムを「秘かに」書き換える指示を販売店に出している。

 

 

 プログラムの変更は、動力系統が作動中にブレーキが踏まれた場合には、ブレーキを優先させるものである。これよって車が万一暴走しても、通常の力でブレーキを踏めば暴走を停止させられるので、前述の事故の防止には役立つ。

 

 

 ブレーキを最優先させる機能はすでにほかのメーカーが導入している。フォルクスワーゲンが2001年に、クライスラーが2003年に、BMW2005年に導入している。トヨタがこれだけ暴走事故の報告を受けながら、今ごろ導入するのは遅きに失した感がある。

 

 

 トヨタはなぜ正々堂々とプログラムの不具合を理由にリコールをかけないのだろうか。「秘かに」プログラムを書き換える措置は、ペダルのリコールで対象となっている車種にしか適用されない。ペダルのリコールで対象になっていない車種で、再び暴走事故が発生したときに、トヨタは消費者にどのように釈明するのだろうか。

 

 

豊田章男社長のマスコミへの登場の仕方にも問題があった。米国では問題が発生するとまずCEO(最高経営責任者)である社長が登場して事情説明を行 う。米国では経営に責任を負うのはCEOただ一人である。だが登場したのは佐々木副社長であった。大規模なリコールを行った時に豊田社長はダボス会議に出 席していた。これには米国民は驚いた。誰がトヨタの最高経営責任者なのだ。

 

 

 最近になって豊田社長はマスコミに顔を出すようになったが、そこでアメリカ国民が目にしたのは精彩を欠いた、存在感の薄い豊田氏だった。2月に米 国議会でトヨタと安全局への事情調査が行われるが、もし豊田社長自身が出席しないとアメリカ国民のトヨタに対する不信感は一層高まるだろう。

 

 

長い歳月で得た信頼も失われるのは一瞬

 

 トヨタというブランドは偉大なブランドだった。日本企業の成功を象徴するブランドだった。トヨタの「かんばん方式」は生産方式の模範とされ、トヨタの品質に対する強い「こだわり」に多くの消費者は尊敬の念をもった。こうして米ビックスリーのシェアを次々に奪い、一昨年にはついに世界ナンバーワンの自動車メーカーになった。

 

 

 米国民にとってトヨタ車に乗っていることは誇りだった。車は高額な商品であるがゆえに、ブランドに自分の価値を重ねる傾向がある。トヨタ車(含むレクサス)に乗っていると周りから羨ましがられた。

 

 

 だが、相次ぐリコール問題でアメリカ国民がはじめて目にした「実像のトヨタ」は、逃げまくる社長、フェアでない事故原因の説明、自社に不利な情報を徹底的に隠ぺいする秘密主義。アメリカ人が最も嫌う価値観を兼ね備えた企業になってしまった。いまやトヨタ愛用者のプライドはズタズタに引き裂かれた。

 

 

 トヨタはこの20年で大きく変わったように思う。1989年に発売して間もないレクサスに欠陥が見つかった時に、トヨタは特別チームを編成して購入者の自宅に出向き、問題の車を回収・修理した。消費者はトヨタの行動に感心し信頼したのである。

 

 

 消費者の信頼を勝ち得たトヨタが今では「姑息で」「傲慢な」企業になってしまった。信頼を得るには長い歳月がかかるが、信頼を失うのは一瞬である。いまトヨタは崖っぷちに立たされている。トヨタが今なすべきことは、初心に帰って「正直で」「誠実な」企業として再び消費者に接することである。

 

 

ベンチャーアクセス「シリコンバレーコラム」20102月より「「転載)
 

 

 

安藤 茂彌氏 (Shigeya Ando)