新春特別講演会 「知的財産セミナー 2005 in Silicon Valley」開催報告
於:Crowne Plaza Hotel Palo Alto| sponsors: | ||
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近年、職務上の発明の特許に関して技術者が対価を求める訴訟が増えてきたのに伴い、特許報酬制度を巡る議論が白熱しています。昨年12月24日に東京高等 裁判所の和解勧告を受けてついに決着した青色LED訴訟では、被告日亜化学工業と原告中村修二カリフォルニア大学バーバラ校教授の3年以上にわたる攻防 が、世界的に注目を集めました。
―日本の特許法に基づく「職務発明制度」は、雇用主側から見て、また従業員側から見て、どのような問題点を持つのか?米国との違いは?―
日米独の知的財産法に精通され、同分野においての日本の第一人者である玉井克哉東京大学教授及び、シュグルー・マイアンのパートナーであり、米国・国際知的財産法を専門とするアラン・キャスパー弁護士をスピーカーとしてお迎えし、講演をして頂きました。
社内の特許報酬制度を見直す日本企業も多い中、当日は約150人の参加を頂き、スピーカー二人の鋭くポイントを抉るプレゼンテーションと白熱した討論が繰り広げられました。
《セミナー資料ダウンロード:Download seminar presentation》
| 1. 玉井克哉教授 | >>日本語版(PDF: 2.1M) >>英語版(PDF: 1.9M) |
| 2. アラン・キャスパー氏 | >>英語版のみ(PDF: 240K) |
| SVJEN は非営利団体であり、日々の活動はスタッフのボランティアと皆様の寄付により運営されています。今回のセミナーのプレゼンテーション資料は、スピーカーの 皆様のご好意により、特別にSVJENにご参加いただいた皆様にお配りしています。どうぞ、SVJENの活動へのご理解とご協力をお願いいたします。 |
JETROサンフランシスコ原岡直幸所長のご挨拶及びスピーカーの紹介でセミナーは開始しました。
最初に、メインスピーカーである玉井教授に、職務発明制度における「権利の帰属」や「相当の対価」等のシステム及びそれに付随する問題点を、今話題の青色LED訴訟等の事例を交えながら解説して頂きました。
◆日本の職務発明制度とその問題点―「相当の対価」の支払い
| 日本の職務発明制度は、特許権の主体となるのが発明者(従業員)だという点で特殊で ある、と最初にご説明頂きました。具体的には、米国では雇用契約の中で対価が規定されますし、ゲームソフトのクリエーター等、「職務著作制度」では雇用者 が権利保持者となります。特許法35条では、就業規則等に基づき発明者が雇用者に当該発明の権利を移転する(=発明が会社の帰属となる)場合、発明者は 「相当の対価」の支払いを受ける権利がある、と規定されています。 | ![]() |
次に、現状の職務発明制度における主な問題点である、(対価の)予測不可能性と、仕組みの硬直性について説明されました。予測不可能性を示す事例として、 過去の代表的な知的財産訴訟(オリンパス光学訴訟、日立製作所訴訟、味の素訴訟等)において、原告側の主張と被告側の主張が、それぞれ判決から一桁以上も 離れた金額であったことが数字で示されました。
注目の青色LED訴訟については、本訴訟の第一審と第二審の判断の違い、対価が約100分の1(※404特許一件でみると約6000分の1とも推定され る)という金額の開きが一体どのように生じたのかについて、「発明による雇用者の利益(A) × 発明者の貢献度(B)」という公式を用いて、かつ科学的価値と事業的価値という論点から分析されました。さらに、被告、原告、裁判所がなぜ和解を受け入れ た・勧告したのかという点についても、それぞれの立場からの深い考察があり、ユーモアがふんだんに盛り込まれた玉井教授の名調子に、会場からは感嘆の声が 上がりました。
これまでの判例からいえるのは、現行法下では対価の計算方法が曖昧なため、結局は裁判で「相当の対価」を決着するしかないということです。雇用者は、常に 訴訟のリスクに備える必要があり、長期的に見て、研究開発に対する投資に対するモチベーションをそぐおそれがある。このような課題を解消する法改正が必要 である、という言葉には重みがありました。
一方、仕組みの硬直性に関しては、現行法が発明の種類の多様性、雇用主・発明者各々の多様性を無視し、個々の発明に対する個別の対価にのみ焦点を当ててい るという問題点を指摘されました。このため、研究設備や資金の提供、雇用の安定や昇進・昇給等、その他の報奨制度については、裁判において考慮されず、画 一的な判決を導くリスクがあるという事実は否めません。
このように特許法の各問題点を分析された上で、「青色LED訴訟の原告からは『日本の司法は腐っている』とのコメントがあったが、腐っているのは実は司法でなく法律である」との持論を熱く述べられました。それでは法律はどうあるべきでしょうか?
◆改正特許法とその落とし穴―改善策は?
米国と同様に契約重視を謳っている、2005年4月から施行される改正特許法の実態はどうか、という観点から二つの問題点を指摘されました。
一つは、「その取り決めが合理的でない場合もしくは取り決めが存在しない場合には『相当の対価』を支払う」とされていることからわかるように、雇用者との 取り決めの「合理的」の判断基準が曖昧であるため、ビジネス的に大成功した発明では、結局裁判所で対価について争うことが予想され、現行法からの改善が見 られないこと。
二つ目は、改正法は、2005年3月以前に権利移転が行われた職務発明については適用されないため、旧法から改正法への切り替えに長期間かかることです。 また、特許法のもう一つの問題、消滅時効が長すぎる点も解決していないため、今後30年?35年(特許権の権利消滅まで20年?25年+時効期間10年) は、旧法に基づく訴訟が提起される可能性があります。
ではこれらの問題を解決するにはどうしたら良いのでしょうか。玉井教授は、雇用者契約によって合意された対価及び算定方法は、裁判所によって変更されるべ きではないこと、また特許法の改正案として35条の権利の移転は残しつつ、「相当の対価」条項の削除並びに最低対価額の設定、既存の特許に関する権利に関 しても定められた短期時効を付与することを導入することを提案されています。
この後、キャスパー弁護士からは、玉井教授のプレゼンテーションを踏まえて対応するアメリカの事例や判例を引きつつ、アメリカの知的財産法及びその施行状況についてご説明を頂きました。
◆米国での知的財産権の取り扱いについて
| 米国での職務発明について、法制度の違い、歴史的な雇用者と従業員の関係の違い、契約及び実務上の解決策が一般的であること、の三点に分けて説明されました。 法的な違いとしては、発明者の権利は憲法で規定されており、州法及び州立裁判所の権限は限定的であること、雇用者―従業員間の契約の概念が確立してお り、裁判においても、雇用契約が重視されること等を詳細に解説されました。実務的な対応としては、特許の申請や承認毎に提供されるインセンティブ・プログ ラムや、昇進、昇給等のシステムが雇用主、従業者それぞれの利益のために導入されていることを、過去の企業調査の結果を示しつつ語られました。 | ![]() |
◆日米の違い及び特許法35条について
日米の比較について、以下のように興味深い分析を示されました。本セミナーの出席者には、日米双方での勤務経験のある方々が多く、ご自身の経験から「なるほど」と思われた方も多かったのではないでしょうか。
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また、米国においては、日本の特許法35条自体は比較的合理的な法律だと受け止められているものの、最近の判例では、権利の移転の対価についてかなりリベ ラルに解釈されていること、同条によって解決されていない問題(同条文が適用されるのは日本企業だけであるのか、また報酬は日本国内の利益に基づいて計算 されるべきであるのか等)、が複数あることについて言及されました。
◆Q&Aセッションと懇親会
スピーカーの講演終了後、シュグルー・マイアンのジョン・インジ弁護士のリードにより、両スピーカーへのQ&Aセッションが行われました。
青色LED訴訟についてはやはり関心が高く、「発明の価値を考えると、やはり実質中村修二教授の負けなのではないか」、「裁判所は195件すべての特許の 価値を全て正確に査定したのか」、「もし青色LED訴訟が米国で起こったとしても、同じような結果になったと思うか」等々、鋭い質問が次々と飛びました。
新特許法については「特許法の監督官庁は保守的であると思われるのに、何故弱者である発明者を保護するようなリベラルな法案が通ったのか」という、興味深い質問がありました。
まだまだ質問されたい方も大勢いらっしゃる中、遂に終了時間となり、その後シュグルー・マイアン主催による、立食形式のネットワーキング懇親会が行われました。懇親会は大盛況で、皆様夜9時近くまで、大いにご歓談されて親睦を深められました。
今回、約150人に及ぶ、弁護士、起業家、エンジニア、マスコミ各社等、様々なバックグラウンドの方々にご出席頂きました。来場者からは非常に好評を博 し、「いままで疑問に思っていた青色LED訴訟の争点について、明確に理解できた。」「プレゼンの内容及びスピーチが素晴らしかった。」「非常に興味深 かった。またこのようなセミナーがあったら是非連絡して欲しい。」等々のお声を数多く頂きました。
最後になりますが、今回のセミナーの成功に導いてくださった、玉井克哉東京大学教授とシュグルー・マイアンのアラン・キャスパー弁護士、モデレーターを務 めてくださったジョン・インジ弁護士に、深甚の感謝を申し上げたいと思います。また、共同開催者であり、司会進行並びにロジスティクス全般をご担当下さっ たJETROサンフランシスコの原岡直幸所長、栗田宣文様、谷内可奈子様、並びにスポンサーであるシュグルー・マイアン弁護士事務所の日下部さなえ様に も、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。
(文:ランドバーグ史枝)
| 参加者の声 |
| 青 色LED訴訟を含めた具体的な事例に基づいて日本における職務発明制度の問題点を明確に示すと共に、法と経済政策の間の根深いテンションにまで言及した玉 井先生の講演は秀逸だった。冗談を交えつつポイントを押さえた先生の語り口には一気に引き込まれてしまった。改正特許法においても本質的には問題が解決さ れていない理由の根底に、法曹には企業が個人の発明を安価で略奪することを阻止することが正義であるという考えが存在するという点にまで踏み込んで頂いた おかげで、状況の理解がより深くなったように思う。「こんなことを続けていては、日本で研究開発する企業が減ってしまう」という玉井先生の危惧に共感を覚 えた。続いたKasper氏は、米国と日本の特許に対するアプローチの違いや、特許法に関して「これは知りたい」と思っていたこと、外資系企業や外国籍の 従業員に適用されるかは未解決である点などを整理して説明頂き、参考になった。 最後の懇親会では久しぶりに偶然会った友人や普段は接する機会のないような初対面の方々との会話を大いに楽しんだ。「本年必見」の宣伝文句に恥じない、内容の濃いセミナーだった。 川原英哉 ソフトウェア CTO オフィス,先進開発グループ Project Looking Glass リードエンジニア 米 Sun Microsystems |
| 中 村氏の発明を、科学の研究史の中で次の人の足がかりをつけたものという意味での価値、その発明自体がどう役立つのかという価値、2つの視点から見てみる と。。。というお話が印象深かったです。思うに、自分がそのどちらで社会に貢献したいか、どこだったら実現しやすいかを考えながら居心地のよい場所へ人が 移動して行くというのは、研究者、起業家に共通するものなのかもしれません。法学のお話を通じて、科学の発明の裏にある社会のダイナミクス、人の生き方の ようなものが見えて、知的に満ち足りたひと時でした。 安藤知華 Chief Learning Designer & Web Editor World Reach, Inc. |
▲写真左より、シュグルー・マイアンのパートナー・インジ弁護士、同じくキャスパー弁護士、玉井東大教授、原岡所長) | ▲話題の青色LED訴訟については多数の鋭い質問が飛び出し、関心の高さを裏付けた |
http://www.jetrosf.org
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