第6回 「ひさみの冒険」開催報告

第6回 「ひさみの冒険」開催報告 (2005年04月16日)

於:Morrison & Foerster LLP (Mofo) パロアルトオフィス




スピーカー:
JaM Japan Marketing LLC Founder & Managing Member
大柴ひさみ
大柴ひさみ氏




「金魚鉢から飛び出す」?金魚鉢から飛び出た金魚が宙に舞っているスライド-この始まりにドキッとした参加者も多かったのではないだろうか。上記は日本を飛び出してアメリカで勝負に打って出た大柴さんが当時のご自分の状況を振り返った言葉だ。
今回は、Morrison & Foerster LLPのご協力により、Generation Yの研究や注目の企業形態LLCの活用等で、国内外の講演・執筆活動にご活躍中のJaM Japan Marketing(以下JaM)代表、大柴ひさみ氏をお迎えした。ターコイズのシルクシャツに白いスカートという華やかな出で立ちで登場した大柴さんの 輝きに、多くの参加者が「パワーをもらった」「勇気が出た」と感想を寄せて下さった。

◆日本から飛び出て◆
日本での大柴さんのキャリアは、広告代理店で16年。1978年に日本に進出したクリニーク化粧品を担当し、同ブランドを百貨店高級ラインのトップに押し 上げる原動力となる。そして最終的には、広告費24億円の同アカウント担当を任されるまでになった。「でも日本では、やっぱり看板で勝負をしていました。 見えていたと思っていたものが、外に出たら違ったのです」

そんな大柴さんが世界に飛び出すきっかけは、アメリカ人のご主人との結婚だった。30代後半でアメリカに移住し、言葉もわからず、なかなか思うような仕事 も見つからない。大柴さんにとって何よりも驚きだったのは、日本では、『(出る杭が打たれるのならば、)打てない杭になってやろう』と頑張ってきた自分 が、アメリカでは、言葉の不自由さや表現の違いに戸惑い、ニコニコした人の良い日本人になっていたこと。そしてダイレクトマーケティングの会社等を経て、 サンフランシスコの広告代理店で働いていた大柴さんを待っていたのは、同僚は皆自分本位で、日本での実績も十分に評価されない環境。朝、星が見えるころに 起きて、カルトレインに乗って出勤、夜は10時?11時まで勤務の毎日。「カルトレインの終電に乗る悲しみが分かりますか?」聴衆からは笑いが起こった が、何年もこの国にいる日本人には、分かります、分かりますよ、と頷いてしまった人も少なくないはず。

◆そして独立へ◆
そしてある日、自分の辛い姿を傍で見ていた、かけがえの無いパートナーであるご主人の言葉に、大柴さんはショックを受ける。『もう良いよ、日本に帰ろう。これ以上君の辛さを見たくない、聞けない。日本でなら、また君は輝けるのだから』
「私は愚痴を言っていたのだと思います。アメリカに来ることは自分で決めたのに、どこかで夫のせいにしていた自分に気づきました。心から夫に謝り、それからは絶対人のせいにしないことにしたのです」

海外での勤務経験から学んだことは、アメリカでリーダーとしてチームを引っ張っていくにはある種の強さが必要だということ。一方で、アメリカには、まだ外国人が生きにくいポリティクスもあり、企業内でやっていくのは難しいと気づいた大柴さんは、独立を考えはじめる。
そこでまた、当時アメリカの大企業に勤務していたご主人の言葉が彼女に勇気を与える。『サラリーマンは1クライアントしかもてない勤務者だから、その1企 業の業績に処遇が左右されて不安定だけれど、君が独立してたくさんの顧客を持てば、安定に変わる。アメリカに来て3年でまだ全ての事が分からないと言うけ れど、全ての事を知る必要は無いじゃないか、日本での16年の経験と米国での3年間で19年の経験じゃないか。十分生かせるはずだ』

◆起業家にとって大切なのは◆
大柴さんは続ける。「一本どっこ」で始めるにあたって、一番大切なのは情熱だが、起業家にとって一番大事なのは、Market、Market、 Marketである。「つまり、自分が持っているExpertiseを提供して、マーケット/エンドユーザーがいくら出すか。よく言われるB2Bとか B2Cとかいう枠組みなど意味が無い」ドッキリ発言、しかし重みのある言葉である。

2001年からはDebbie Bergh氏とパートナーを組み、JaMをLLCとして再編成する。その以前のスタートアップ経験を振り返って、起業家は「Evangelist(伝道者)」で無ければならない、というお話を頂く。これは失敗例です、という前置きとともに。
大柴さんは、6ヶ月の期限を切って、ものにならなければやめるというビジネス・プランを書いたことがあった。資金を集めるべくベンチャー・キャピタルにプ レゼンもしたが、一方で、この事業に必要な専門知識の不足に気づき出した。最終的に6ヶ月が終わる少し前に、エンジェル投資家が投資を申し出てきたが、結 局資金を受け取らなかった。「今思えば、その事業の成功を今のJaMほど信じていなかった。Passionも無かった。自分自身が信じきれてなかったた め、他の人を巻き込んで、リターンをもたらさなければいけない責任の重さに耐えられなかったのです」それに比べ、今のJaMでは、情熱だけはあるのだと彼 女は笑う。
また、これらの経験から大柴さんが実感したのは、起業家には、自分のPassion を持続して燃やしてくれる周りの人が必要、一人ではいずれ燃え尽きてしまうので、情熱の火が絶えないように周囲の人にマッチで火をつけていかなくてはなら ないのだ、ということ。中でも家族は重要な支援者で、起業直後は、事業が軌道に乗るまで少なくとも最初の1-2年は食べさせてもらわなければならないし、 ビジネス・プランにアドバイスをするのも、最初にサインするのも家族。だから家族が信じないビジネス・プランは有り得ない、とのこと。納得である。

大切なのは、「Mission よりもDesire」と大柴さんは強調する。もともと、彼女はとても人間(心理・行動)に興味があった。自分がどう社会に貢献できるかと考えたとき、やは り日米間で、お互いが理解するための橋渡しをしたいと考えたことが現在の仕事に繋がっている。「だから、その仕事に幸せを感じない人と一緒にはやりたくな いですね」

Market、Passion、Desire等々、巷で使い古された言葉のようだが、大柴さんの口から出てくると、命を吹き込まれたかのようだ。

◆強みにフォーカスする◆
プレゼンテーション終盤、多くの参加者が熱心にメモを取っていたのは、やはり大柴さんの専門であるマーケティングの話だった。優秀なマーケッターは信頼を 売っている、従って、どうやってTrustを売るかが大事だそうだ。また、自分の強み・これまでやってきたことをいかに他と差別化しつつ、今後やりたい分 野に適用していくかがカギとのこと。「よく、自分の強み・弱みを述べて下さい、といわれると、弱みばかり述べる人がいるが、実は弱みにフォーカスして直そ うとするのは時間の無駄。強みが重要なのです?これを売らなければならないのだから」目から鱗である。

JaMでは、業界に縛られないマーケティング・コンサルティングを提供している。業界を選ばなくても通じる Expertiseがあるからだそうだ。それを証明するように、JaMでは、1年2年後に、以前のクライアントが戻ってくるとのこと。成功のポイントをい くつか挙げてもらった。

・注文した値段以上のものを必ずDeliveryしていること(他と比較すればわかる、と自負している)
・ベンダー(業者)ではなく、パートナー意識を持つこと
・文化的背景を理解した上で付加価値をつけること
・専門知識については、必要に応じて各業界のスペシャリストを連れてくる体制が整っていること

熱っぽいプレゼンテーションの終了後、Q&Aセッションとなった。以下、いくつかの質疑応答を抜粋する。

Q. 大柴さんの各種講演活動等で話題のLLCやGeneration Yについてより深い説明をお願いしたい。
A. LLCはもともと、パートナーシップで、パートナーの合意があれば、通常のCorporationの様々な規制に縛られないで事業ができるという起業支援 のための仕組み。税金がパス・スルーで、完全なプロフィット・シェアリングが実現できるため、参加者のモチベーションがあがるというメリットがあり、人的 な繋がりがあるところに向いている。経済産業省から出ている「日本版LLC」という本は、最初はJaMへの取材だったのが、結局調査プロジェクトになった ものである。

ジェネレーションYへの関わりは、精力的に執筆活動を展開されている大柴さんが、コラム執筆を通じ、『クリックするために生まれてきた子供達』として紹介したのがきっかけだった。
ジェネレーションY(現在10?28、29歳の世代)とは、ブロードバンドが普及する時代に育ち、その場ですぐ得られるものを求める、インスタントな満足 になれた世代。消費行動が前の世代(ジェネレーションX・・・30?40歳や、Boomers・・・40-60台)とは異なる。
マーケッターは、現在の消費の中核を担うジェネレーションXが何を求めているか(テレビドラマで独身者中心のFriendsから、家庭内の問題を描く Desperate Housewivesへ移行したように)というように、社会・人間が求めているのは何か、ということを常に考える。

Q. パートナー、人はどうやって選ぶ・集めるのか
A. 一緒にやろうという気持ちがあるかないかが一番。そして、JaMの業務的には、日本人の価値観も考えてコラボレートできる必要がある。あとは、私のモッ トーは、「清く正しく美しく」なので、美しい仕事ができる人。例えば、事業計画を話していても、すぐ(その日中にも)プロジェクトのアウトラインが出るよ うな人でなければダメ。

Q. これからマーケッターになりたい人へのメッセージをお願いしたい。
A. 好奇心、人間の行動に興味があることが必要。マーケッターは、生まれながらにしてマーケッターなので、そのポテンシャルを活かすには、毎日入ってくるいろいろな情報に興味を持つこと。そして、調査会社と勘違いしないこと。

その他、いかに事業計画に自信を持てるようになったのか、最近話題のWOM (Word of Mouth、口コミ)Marketing/Buzz Marketingへの見解等々、貴重なお話を頂く。

最後にJaMパートナーDebbie Berghさんからも、参加者へ一言頂いた。
「ひさみさんと組んで、いいパートナーを見つけることが大切だと日々感じています。私達は、やり方、経験は違うけれども、Valueが共通している。1足す1が3、4、10になるような出会いを、皆様も探して下さい」

大盛り上がりのセッションを、以下の言葉で締めて下さった。
「毎日の生活が冒険だと思っている。皆さんも、Take a riskとまではいかなくとも、Take a chanceしてください。人生は長くないので、私は、やれることは全部やりたい。応援して下さい!」

当日の参加者は60名以上。トピックを反映してか、いつもよりも女性比率が高かったようだ。
懇親会は料理がおいしいと評判だったが、食事をそっちのけで大柴さんを囲む人の輪が途切れなかった。皆パワーを貰った、と口をそろえて言う。100歳まで生きると公言されている「ひさみさんの冒険」を楽しみにするファンが沢山増えたのではないだろうか。
Sailingをご趣味とされる大柴さんは、5/21から2週間かけて、仲間で操船してハワイまで行くそうだ。皆様がこのレポートを読む頃には、大柴さんは大西洋上かも知れない。

(文:ランドバーグ史枝、撮影:黒田正宏)










会場には多くの女性の姿が

▲会場には多くの女性の姿が

質疑応答の様子

▲終了後も多数の質問を受ける大柴氏




スピーカープロフィール

大柴 ひさみ(Hisami Ohshiba)
Founder & Managing Member, JaM Japan Marketing LLC

女性広告営業のパイオニアとして16年間日本の大手広告代理店電通ヤングアンドルビカム(DY&R)に在籍。1995年の退社までクリ ニーク化粧品の担当営業として日本市場でのブランドイメージの確立とセールス拡大のためのマーケティング活動(雑誌・新聞広告・TV・ラジオCM、SP、 PR、調査企画)に貢献、クリニークを外資系化粧品のNO1のポジションに導いた。1995年カリフォルニアに移住。米国大手広告代理店McCann- Erickson San FranciscoでDFS Groupの担当営業、ディレクトマーケティング会社Fulcrum Directの国際部のスーパーバイザー、日本女性向けのライフスタイルウェブサイトOnna.comの マーケティング担当副社長としてスタートアップ企業の立ち上げに貢献する。 1998年JaM Japan Marketingを設立。


タイトル: 第6回 「ひさみの冒険」開催報告
登録方法: ※当イベントは終了しました


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